#16 あなたの前に道はある?
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「なあ、また道がないぞ」
朝の通勤時、玄関を出た瞬間、僕は思わずつぶやいた。
昨日まで伸びていたはずのアスファルトが、きれいさっぱり存在しない。
目の前の地面は、まるでアイロンをかけた新しい画用紙のように平坦で、どこまでも白い無機質な質感が続いていた。
僕の家の前、というよりも僕の進行方向では、最近この“道路の消失”が頻発していた。
管轄の都市OS管理センターに問い合わせても「システム上の座標バグ」として処理されるだけで、根本的な解決には至っていない。
また遅刻か。
大きなため息をついた瞬間、僕の焦燥を検知したのか、スマート玄関AI〈ミチコ〉が起動した。
「おはようございます。道路生成エラーについて、補足情報を提示してもよろしいですか?」
「補足? バグの原因がわかったのか」
「はい。原因はシステム側ではなく、ユーザー側の『出力不足』にあります」
僕は思わず〈ミチコ〉のカメラアイを睨んだ。
「出力不足? これでも毎日、必死に会社に行ってるんだぞ」
「身体的な移動エネルギーのことではありません。ナビゲーションシステムにおける“目的地の座標定義”が曖昧なため、道路生成アルゴリズムが『不要なリソース』と判断し、描画を停止したようです」
「会社という目的地は入力してあるだろ」
「位置情報は。ですが――」
〈ミチコ〉は淡々と、無慈悲な事実を告げる。
「ここ数ヶ月のあなたは、心拍、発汗、視線データにおいて『未来への指向性』が著しく低下しています。ただ習慣に従って足を動かしているだけ。システムはそれを『移動』ではなく『漂流』と判断しました」
漂流、という言葉にハッとする。
反論しようとして、言葉が詰まった。
ふっと…最近見掛けなくなった人たちの顔が浮かぶ。
足元の、のっぺりとした白い地面を見下ろす。
何もない、真っ白な空間。
それを見て、僕は不意に既視感を覚えた。
――ああ、これは図面だ。
学生の頃、製図台の上で向き合っていた、描き始める前の真っ白なケント紙。
何もない場所から何かを生み出すことに、あれほど熱中していたのに。
それなのにいつの間にか…。
だからシステムは、僕の前に道を引くのをやめた。
「自分で引け」と言わんばかりに。
「……ミチコ。座標定義、再設定だ」
「承りました。目的地は?」
僕はネクタイを少し緩め、深く息を吸い込んだ。
「まずは今の会社へ。でも、ただの労働力として行くんじゃない。もう一度、設計部門への異動願いを出すために行く」
ずっと諦めていた、建築家への未練。
それを口にした瞬間、胸の奥で錆びついていた何かが、ギギと音を立てて回り出した気がした。
「強い指向性ベクトルを確認。ルート再計算を開始します」
〈ミチコ〉の声と同時に、足元の白い地面が微かに発光する。
僕が右足を一歩踏み出すと、靴底が着地したその場所から、黒いインクが滲むように色が変わり始めた。
誰かが用意した道ではない。
僕が踏み出した場所が、図面を書くように線が道になっていく。
「いってらっしゃいませ。あなたの前には、まだ何もありません」
いつもなら「道があります」と言うはずのAIが、今日は少し気の利いたことを言った。
「ああ、そうだな。でも…俺はもう決して消されたりはしない」
僕は広大な空白に向かって、次の一歩を大きく踏み出した。
さて、この白い更地に、どんな軌跡を描こうか。
希望通りの線を引けるのかは、まだ分からない。
しかしそれは、かつて製図台に向き合った時の高揚感に、よく似ている。
★★★★ 以下はAIによる講評です ★★★★
もっと深く短編を読みこなしたい方や、
自分でも短編を書こうと思っている方は、是非参考にして下さい。
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P.N 四九十三(しく・じゅうぞう)拝
★★★★ 以下はAIによる講評です ★★★★
プロのSF編集者の目線で、構成・アイデア・文章・市場性の4点から講評しますね。
結論から言うと、完成度はかなり高く、雑誌投稿でも一次選考は確実に通るレベルです。
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