産休・育休後の職場復帰を支える3つの対策|クリニックの育休復帰支援とスタッフ定着【院長Q&A】
解説|大谷 武史(トゥモロー&コンサルティング株式会社 代表)
編集|同社 広報部
※法制度・統計情報は、2026年7月時点で公開されている厚生労働省資料などをもとにしています。
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院長先生から寄せられた経営・マネジメントの悩みに、
トゥモロー&コンサルティング株式会社代表の大谷武史がお答えする
「院長Q&A」シリーズ。
今回は、次のようなご質問をいただきました。
▶ 産休・育休を取得したスタッフに、退職せずに戻ってきてもらうためには、どうすればよいでしょうか?
結論からお伝えすると、特に意識したいのは次の3点です。
1.制度だけでなく、院長の考えまで伝える
2.妊娠報告を受けたときの「第一声」を大切にする
3.復帰後の働き方と研修を、口約束ではなく仕組みにする
制度があるだけでは、スタッフが安心して復帰できるとは限りません。
「本当に利用してよいのか」
「休んだ後も戻ってきてほしいと思われているのか」
「子育てをしながら働き続けられるのか」
こうした不安に対して、院長の言葉と具体的な仕組みの両方を用意しておくことが大切です。
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1.制度だけでなく、院長の考えまで伝える
院長先生から、
「産休や育休は法律で認められているのだから、取得できて当然だよ」
「就業規則にも記載しているよ」
と伺うことがあります。
しかし、スタッフが気にしているのは、制度の内容だけではありません。
「本当に取得してよいのか」
「休んだ後も戻ってきてほしいと思われているのか」
「復帰後の働き方について相談できるのか」
といった、医院側の考えも見ています。
そのため、制度を説明するときには、院長の姿勢まで言葉にして伝えることが大切です。
例えば、
「産休・育休は遠慮なく利用してください。まずは安心して出産と育児に向き合ってください。復帰する時期や働き方についても、相談しながら決めていきましょう」と伝えます。
「制度がある」だけでなく、「取得を歓迎している」「復帰してほしいと思っている」と伝える。
これが最初のポイントです。
♢ 制度を、スタッフが理解できる形にする
就業規則に制度を記載していても、必要な情報が複数のページに分かれていると、スタッフは休業から復帰までの流れをつかみにくいものです。
そこで、次のような内容をA4用紙1~2枚程度にまとめておくと分かりやすくなります。
・相談する担当者
・申し出や手続きの時期
・休業前面談の時期
・休業中の連絡方法
・復帰前面談の時期
・勤務条件の決め方
・復帰後の研修や支援体制
制度があるだけでなく、誰が、いつ、何を確認するのかまで整理しておくことで、院内でも運用しやすくなります。
こうした案内や復帰までの支援計画を作成する際には、厚生労働省が公開している「育休復帰支援プラン」が参考になります。
♢ 本人の意向を確認することも必要
2025年10月からは、妊娠・出産の申し出を受けたときと、子どもが3歳になるまでの適切な時期に、本人の意向を個別に聴き取ることが事業主に義務づけられました。
聴き取るのは、勤務時間帯や勤務地、制度の利用期間、業務量などです。
そして、聴き取った内容については、自院の状況に応じて配慮することも求められます。
法律上の項目を確認するだけで終わらせず、
「どのような働き方であれば復帰できそうか」
「何に不安を感じているか」まで話し合うことが大切です。
2.妊娠報告を受けたときの「第一声」を大切にする
スタッフから妊娠の報告を受けた瞬間、院長の頭には、
・いつから休みに入るのか
・シフトをどう組み直すのか
・採用や引き継ぎをどうするのか
といったことが浮かぶと思います。
少人数で運営する診療所や歯科医院では、自然な反応です。
ただし、それを最初の言葉として出してしまうと、本人には違う意味で伝わることがあります。
♢ 実際にあった妊娠報告の場面
これまで支援に関わったクリニックで、妊娠報告時の対応が、その後の関係に影響した事例がありました。
スタッフが妊娠を報告した際、最初に返ってきたのは、「いつから休みに入るの?」という言葉でした。
少人数で運営するクリニックですから、院長側には、人員体制や業務の引き継ぎについて早めに確認しておきたい事情があったのだと思います。
ただ、スタッフには、「妊娠を喜んでもらえなかった」という印象が残りました。
そのスタッフは産休・育休を取得し、一度は職場へ復帰しましたが、約半年後に退職しています。
もちろん、退職の理由を、最初の一言だけに結びつけることはできません。
それでも、こうした場面に立ち会ってきた経験から感じるのは、妊娠報告を受けた瞬間の反応が、その後の信頼関係の土台になりやすい、ということです。
まずは、
「ご報告ありがとう。まずは体調を優先してください。勤務や手続きについては、改めて落ち着いて話しましょう」と受け止める。
人員体制や引き継ぎの確認は、その後でもできます。
♢ 制度を利用しにくくする言動にも注意する
妊娠・出産や育児休業等に関するハラスメントを防止するための措置を講じることは、事業主の義務です。
育児休業の取得を思いとどまらせるような言動や、制度の利用を理由とした不利益な取り扱いは認められていません。
また、法律上のハラスメントに該当するかどうかにかかわらず、「制度を利用すると周囲へ迷惑をかける」と本人が感じる伝え方にも注意が必要です。
例えば、「この時期に休まれると困る」「みんなに負担がかかる」といった言葉は、院長側に悪気がなくても、本人には制度利用をためらわせるメッセージとして伝わることがあります。
人員体制の確認は必要ですが、最初から負担や調整の話を前面に出すのではなく、まずは安心して相談できる姿勢を示すことが大切です。
3.復帰後の働き方と研修を「口約束」にしない
「復帰するときに、また相談しましょう」
という言葉だけでは、本人は復帰後の生活を具体的に想像できません。
・週に何日働くのか
・何時から何時まで勤務するのか
・子どもの体調不良時にどうするのか
・休業中に変わった業務を誰が教えるのか
こうした点を、復帰前に確認しておく必要があります。
特に医療現場では、休業中にも電子カルテ、予約システム、院内ルール、スタッフ体制などが変わります。
1年、2年と現場を離れていれば、不安を感じるのは自然なことです。
そこで、復帰前面談と簡単な「ブランク研修」を用意します。
例えば、次のような流れです。
【復帰1~2か月前】
勤務日数・時間、家庭との両立、担当業務を確認する。
【復帰前】
休業中に変わった業務やシステムを整理し、教育担当者を決める。
【復帰初週】
変更点を説明し、見学や補助業務から段階的に始める。
【復帰後1~3か月】
勤務時間や業務量に無理がないか、改めて確認する。
大がかりな研修は必要ありません。
誰が、いつ、何を説明するのかを決めておくだけでも、復帰時の混乱は減らせます。
♢ 自院で利用できる働き方を整理する
2025年10月からは、3歳から小学校就学前までの子どもを養育する労働者に対して、事業主は次の5つから2つ以上の措置を用意することが義務づけられています。
1.始業時刻等の変更
2.テレワークなど
3.保育施設の設置運営など
4.養育両立支援休暇の付与
5.短時間勤務制度
労働者は、事業主が用意した措置の中から1つ選んで利用できます。
診療所や歯科医院では、職種によってテレワークが難しい場合もあります。
その場合でも、始業・終業時刻の変更や短時間勤務など、自院で導入できる措置を検討し、スタッフが分かる形で示しておくことが必要です。
なお、独自の勤務方法が法律上の措置に該当するとは限りません。
制度の導入や就業規則への反映については、社会保険労務士や都道府県労働局へご確認ください。
復帰する本人だけでなく、周囲のスタッフにも配慮する
復帰する本人の勤務時間を短くした結果、ほかのスタッフへ業務が偏れば、新たな不満が生まれることがあります。
・休業中の業務を誰が担当するのか
・特定のスタッフへ負担が集中していないか
・急な欠勤時に誰が対応するのか
こうした点も、院長や管理者が整理しておく必要があります。
「みんなで支えてください」と善意だけに委ねるのではなく、業務分担まで仕組みにする。
復帰する本人と、支えるスタッフの両方への配慮が大切です。
まとめ
産休・育休後の職場復帰を支えるために、意識したいのは次の3点です。
1.制度だけでなく、院長の考えまで伝える
2.妊娠報告を受けたときの第一声を大切にする
3.復帰後の働き方と研修を仕組みにする
「戻ってきてほしい」と伝えるだけでなく、安心して戻れる流れを見える形にしておくこと。
それが、スタッフの人財定着と、長く働ける職場づくりにつながっていくのではないでしょうか。
最後に確認|復帰支援のQ&A
Q.まず何から始めればよいですか?
就業規則に制度があるかだけでなく、スタッフが休業から復帰までの流れを理解できる状態になっているかを確認します。
相談する担当者、面談時期、休業中の連絡方法、復帰後の働き方や研修について、A4用紙1~2枚程度に整理すると分かりやすくなります。
Q.妊娠報告を受けたとき、休業時期や引き継ぎについて確認してはいけませんか?
確認すること自体が問題なのではありません。
大切なのは順番です。
まずは報告を受け止め、体調への配慮を伝えます。
そのうえで、休業時期、勤務条件、引き継ぎについて、改めて話し合う時間を設けます。
Q.復帰後のブランク研修は、法律上の義務ですか?
ブランク研修そのものが、法律上の義務として定められているわけではありません。
ただし、休業中に変更されたシステムや業務手順を確認する機会を設けることで、本人は段階的に職場へ戻りやすくなります。
教育担当者と復帰後1か月程度の業務計画を決めておくと、教える側のスタッフも対応しやすくなります。
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解説者
大谷 武史(おおたに たけし)
トゥモロー&コンサルティング株式会社 代表/医療経営専門コンサルタント
上場企業の経営企画室の経験を経て、 2008年の創業以来、診療所および歯科医院の集患、人財育成、組織づくりに特化して支援。
2021年まで大学講師としてゼミを担当し、チームビルディングを研究。 現在は年間150件以上のワークショップに登壇し、累計10,000人以上への研修実績を持つ。
※年間登壇回数および累計研修人数は、トゥモロー&コンサルティング株式会社による集計です。
本記事について
本記事は、大谷武史による動画解説と、診療所および歯科医院でのコンサルティング、研修、ワークショップを通じて得た現場経験をもとに、トゥモロー&コンサルティング株式会社 広報部が構成・執筆しています。
法制度や統計に関する記述は、厚生労働省などの一次資料を確認しています。
記事中の事例は、個人や医療機関が特定されないよう、趣旨を変えない範囲で一部の情報を省略・整理しています。
個別の雇用条件や就業規則への反映については、都道府県労働局や社会保険労務士などへご確認ください。
参考資料
・厚生労働省「法改正のポイント|育児休業制度特設サイト」
https://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyoukintou/ryouritsu/ikuji/law-amendment/
・厚生労働省「柔軟な働き方を実現するための措置」
https://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyoukintou/ryouritsu/ikuji/flexiblework/
・厚生労働省「育休復帰支援プラン策定のご案内」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000067027.html
・厚生労働省「あかるい職場応援団|妊娠・出産、育児・介護休業等に関するハラスメントとは」
https://www.no-harassment.mhlw.go.jp/foundation/harassment_list/maternity-hara/
