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ツバメと紙ヒコーキと小学3年生の祈り

今年も3月末にはツバメの姿を見かけていた。大好きな渡り鳥だ。
去年のことを思いだす。
小学3年生の孫が両方の手のひらに大事そうにツバメの雛を2羽持ち帰ってきた。
帰り道にある公会堂の玄関に落ちていたそうだ。上の巣から落ちたのだろう。

さて、こまった。野生のツバメを飼えるのか?
しかし、戻してきなさいとは言えない。
鳥獣店にエサのことをたずねてみた。
ミルワー厶という虫エサがあるという。
ピンセットで雛の口に入れてみた。
食べる、食べるぞと孫だけでなく私までうれしくなり、とりあえず飼ってみることにした。以前に飼っていたインコの鳥籠があったことを思いだし2羽を入れた。
空が白み始めるころにはエサを欲しがる。
ピンセットでほいよ、ほいよ、と与えた。
こちらが面白がっている景色だ。
けれども2羽のうち1羽はもともと弱そうでもう1羽との競争に負けていった。仕方のないことかも知れない。ついには、エサをとる気配もなくなり、朝、冷たくなっていた。
孫はとてもつらそうで涙がこぼれていた。

どのくらいの日数が過ぎたか、残った雛はずいぶん大きくなり元気だった。
ある日、何気なく、ベランダに籠を出してみた。すると、どこから見つけたのか、首のところが褐色のツバメが籠の近くの柵に止まった。と思ったらすぐにどこかへ飛んでいってしまった。
違った、そのツバメは何かを咥えてすぐに戻ってきた。トンボを咥えていたのだ。
籠のなかの雛に食べさせようとしているようだ。籠の中からでは、とうぜん咥えられない。けれども、そのツバメは繰り返しくりかえし、何度でもトンボを咥えて戻ってきた。親鳥なのだろうか、巣から消えたわが子を見つけたのだろうか。
それから毎日まいにちトンボを運んでくる。

こまった。子ツバメは今はとても飛べるような大きさではない。
それでも親ツバメは諦めなかった。

何日過ぎたか、親ツバメが来ている時に、思いきって籠を開けてみた。子ツバメは外にでた。そして飛んだ、と思ったが、すぐに失速して近くの屋根に落ちてしまった。私たちはすぐにその屋根にハシゴをかけ、子ツバメを籠に戻した。
それから、5日、もう一度、飛ばしてみようと籠を開けた。
大成功。子ツバメは高く舞い上がり、円を描いた。そうして親鳥と2羽飛んで行った。
孫に、ツバメは紙ヒコーキみたいに飛ぶね、と言った。
すると孫は何か思いついたように家の中に戻り、あるものを手にしていた。紙ヒコーキ。孫は作ってきた紙ヒコーキをツバメの去った方に向かって飛ばした。
「あの子も飛んだよね」と孫が言った。
私たちは、声が出なかった。死んでしまったもう1羽のことに違いないからだ。
私は、ただ孫に、おじぎをした。孫はふしぎそうな顔をしていた。

5月、小学4年生になった孫の鯉のぼりが、たなびいている。鯉の向こうに紙ヒコーキが見えた気がした、と言ったら嘘に聞こえるか、でも本当なんです。




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