19歳、味を知らずに酒を提供
「19歳、味を知らずに酒を提供」
まさにこのタイトル通りの仕事をしている。
軽く自己紹介、僕は東京の某私立大学(文系)に通っている大学一年生、男である。入学から1ヶ月が経った5月より、キャパが「女子の1番モテるインスタフォロワー数」くらいのライブハウスでバイトをしている。ちなみに初めてのバイトである。
仕事内容は入場時にお客様が納めてくれる700円という多額の入場料と引き換えに原価50円ほどのお酒などドリンクを提供することだ。
酔ったことがない、口さえつけたことがない。
不謹慎だが、チョコレートの味を知らないカカオ農園で働く子供という例えがぴったりだ。
ここからはライブハウスという農園にて日々切磋琢磨している僕の3ヶ月間の初バイト記録、特に印象深い2点について書き綴る。
・敬語力
バイトを始めて約3ヶ月が経つが、明らかにこの能力が己の首を締め付けている。
中学、高校と運動部だったこともあり、敬語力には謎の根も葉もない自信があった。そう、蓋を開けてみれば「言『葉』」が一切出てこないのである。基本1人での作業なので、これからも当分敬語を誤魔化しながら過ごすことになるという事実に絶望している。
「注文を承った時」、「お好みのアレンジを加えるか聞く時」、「ドリンクを渡す時」敬語を用いる3つの壁があるが、見事に飛び越えられない。
注文を伺った際、なんて返せばいいかわからず、とりあえず「はい」とか言うとお客様がもう一度丁寧に注文を読み上げてくださる、それに対する返しも分からず「はい」とか言ってしまった途端、再びさらに大きな声で読み上げてくださる。この永久機関の懸念点はおそらく僕のメンタルの弱さになるだろう。
アレンジを加えるか聞いた時、なんて返せば分からず「OKです」と答えていたが、水曜日のダウンタウンの例の回を見て以来、流石に使えなくなってしまった。はっしーはっぴーが怒られてる姿は他人事でなかった。なので今は「はぁーい」と返す。絶対に正解ではないが、これは聞き返されないのでいいんじゃないのかなと思うことにしてる。俺が頑張ったところで店が良くなっても直接の利益はない。バイトだもん。
ドリンクを渡す時、「はい、〇〇です」と言って渡している、これに関してはほぼ正解じゃないかと。結局、敬語を知らなさすぎて「はい」の三段活用に行き着いてしまった。
あるある探検隊かよ、と自分にツッコミたくなる。
・大人の世界
「大人の世界」。これは、19歳の僕にとってあまりに眩しい、あまりに遠く感じるものである。
まず、僕の職場には同年代がほぼいない、店長を除いたほとんどの社員とバイトが25歳前後である。
まず、会話の内容が明らかに違う。
僕ら大学一年生の話すことなんて「女」「スマホゲーム」「次の講義飛ぶか」これくらいである。
一方、職場の先輩方は「仕事」「健康的な食事」「生活リズム」など、大学一年生の時期があったとは思えない、実に堅実で有意義な話題についての議論をしている。
だが、僕の大学生活についての話は興味津々で楽しそうに聞いてくれる。その時だけ、目には多少の光が見える。
一体社会の何が先輩方をそうさせてしまったのだろうか。ただ、その姿さえもかっこいい。
この環境に居づらさを感じる一方、正直、憧れてしまっている。
鏡に映らないが、おそらく、光に満ち溢れてる僕。今は闇に引き込まれ、輝きに目が眩むことはない。
ただ、いつか闇に染まり、過去の自分に目が眩むのも避けたい。
なんて語ってる間に闇へ刻一刻と近づいているマリオの強制スクロールステージのような人生。見えないゴールに向けて永遠に障害物を避け続けているだけだ。
60分飲み物を渡し続けて1000円ちょいが貰えるだけの、わざわざ深く考える必要もない単純なバイト。昂ってダラダラと書き起こしてもタイムカードに印字されないのなら何も得るものはないのである。

