七夕の歩幅



今朝は早起きして鏡の前に立った。
7月7日。映画の中にいる様な静かな気持ちで玄関を出た。

彼が遠くから歩いてくるのが見えた。逆光でよく見えないがスラリとした影が去年とさほど変わらない。玉砂利を踏む音に耳を澄まし高まりを鎮めた。少しだけ太った私は一応髪の毛を撫でてみる。一年ぶりの彼、一年経った私、並んで同じ場所まで歩く。終わりかけの紫陽花に朝露が閃く。久しぶりなのにいつもなんでもない話。花を渡されると、かかんで桶に水を汲んでいる背中を見つめた。歩く速度が似ているこの人と本当は毎日でも会いたかった。


今年も仲良くゆっくり歩いてくるな。
俺の気持ちもしらないで。墓の中から2人を睨みつけた。

なぜこんなに感情が昂るんだ。俺は死んだはずなのに。

いいえ、あなた生きてます。
そんなわけないだろ。
俺は死んだんだ。これからあいつらが会いに来るんだ。

死んだのはあのふたり。
あなたが嫉妬で殺したんです。2人は恋仲ではなかった。何を言ってるのかわからなくて聞き取れない声が耳に響いた。
静かにしなさい。金属の擦れる不愉快な音が看守の足取りと共に去っていった。


なんなんだよ、このきもちは。
2人が玉砂利を踏んで歩いてくる足音。あの時の俺とあの人の歩く速さよりもゆっくり。としをとったから?一緒にいる時間を伸ばすためか?

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