見出し画像

ボクサーは、なぜ最後まで「もっと働く」と言ったのか― ジョージ・オーウェル『動物農場』が教えた自由の条件

「もっと働く」「ナポレオンはいつも正しい」。ボクサーは誰よりも善良でした。しかし、自分で考えることをやめた善意は、ときに支配を支えてしまいます。
※画像はインターネットで見つけた『Animal Farm』のイラストを使用しています。

私の車のライセンスプレートは、歴代「1984」です。

もちろん、ジョージ・オーウェルの小説『1984』から取ったものです。
しかし、私が最初に読んだオーウェル作品は、『1984』ではありませんでした。15歳の時に読んだ『動物農場』でした。

『1984』は、全体主義社会を描いた非常に重い作品です。
一方、『動物農場』は寓話です。

動物たちが主人公なので、一見すると読みやすい。
しかし、だからこそ怖い作品なのです。

物語は、豚のメージャーが動物たちに理想を語るところから始まります。
人間に支配されるのではなく、動物たち自身が運営する自由で平等な農場を作る。

その理想のもと、動物たちは反乱を起こし、人間を追放します。
新しい「動物農場」の誕生です。

革命は成功したかに見えました。
しかし、そこから少しずつ変化が始まります。

リーダーとなったのは、豚のスノーボールとナポレオンでした。
豚たちは、動物の中でもっとも知能が高い存在とされ、次第に指導者としての地位を築いていきます。

そして、ナポレオンは犬を軍隊のように育て、スノーボールを追放します。
ここから動物農場は、理想の共同体から独裁体制へと変わっていきます。

その変化を支えたのが、豚のスクィーラーという宣伝係でした。
彼は巧みな言葉によって、動物たちに現実を受け入れさせます。

昨日までの約束が変わっていても、
「それは最初からそうだった」
と思わせてしまう。

言葉によって現実の認識を変える。
オーウェルが描いた世界は、現代にも通じる問題を含んでいます。
とりわけ、歴史をめぐる言葉が数多く交わされる8月には、その意味を考えさせられます。

この物語で、私が15歳の頃から強く印象に残っているのが、馬のボクサーです。

ボクサーは、革命に忠実な働き者でした。
誰よりも力があり、誰よりも農場のために働きました。

彼の口癖は、
「もっと働くぞ」
でした。
そして、
「ナポレオンは正しい」
と信じ続けました。

ボクサーは悪い存在ではありません。
むしろ、誰よりも善良でした。
仲間思いで、責任感があり、怠けることを嫌う。

しかし、彼には一つ欠けていたものがありました。
自分で考え、疑うことです。

20年以上前、私はこの作品について文章を書きました。
その時、私はこう考えました。

ボクサーの勤勉さは、一見すると素晴らしいものです。
しかし、皮肉なことに、彼が一生懸命働けば働くほど、豚たちの支配体制は強化されていきました。

彼の純粋な善意と勤勉さが、支配者の意図を隠す役割を果たしてしまったのです。これは、非常に恐ろしいことです。

悪意のある人間だけが社会を壊すのではありません。
善意の人間が、考えることをやめた時にも、社会は危うくなるのです。

考えてみれば、これは現代にも通じる問題です。

  • 努力すること。

  • 真面目に働くこと。

  • 組織に貢献すること。

それ自体は素晴らしいことです。
しかし、問わなければならないことがあります。

「何のために努力しているのか」
「誰のために働いているのか」
「その方向は本当に正しいのか」
ということです。

私はコンサルティングの仕事で、常に仮説を立てることを大切にしてきました。

まず現状を見る。
ベースラインを作る。
そして、
「問題はここにあるのではないか」
という仮説を立てる。

その後、検証する。
間違っていれば修正する。

人生も同じなのかもしれません。
ただ一生懸命進むだけではなく、ときどき立ち止まり、自分がどこへ向かっているのかを考える。

それが、人間に与えられた自由なのだと思います。

15歳の時に読んだ『動物農場』。
その時は、単純に面白い寓話として読みました。

しかし、70歳になった今、違うものが見えてきます。
オーウェルが問いかけたのは、独裁者の恐ろしさだけではありません。

なぜ普通の人々が、その体制を支えてしまうのか。
なぜ人間は、自分で考えることをやめてしまうのか。
という問題でした。

自由とは、好き勝手に生きることではありません。
自分で考え、自分で判断し、自分の人生を引き受けることです。

15歳の少年が読んだ『動物農場』は、70歳になった今も、私に同じ問いを投げかけています。

あなたは、自分の頭で考えているだろうか。
あなたは、本当に自分の人生を生きているだろうか。

***


いいなと思ったら応援しよう!