『セント・オブ・ウーマン』――The Making of Men が私に教えてくれたこと(後編)

前編では、『セント・オブ・ウーマン』のクライマックスで語られる Integrity について書きました。
"His soul is intact."
インテグリティとは、魂を売らないこと。
高齢者になった今、私はそう考えています。しかし、この映画が私に教えてくれたものは、それだけではありませんでした。
私の心に三十年以上残り続けている言葉が、もう一つあります。
"I'm in the business of the making of men."
この一言です。
若い頃の私は、この意味を十分には理解していませんでした。
しかし、長年コンサルティングという仕事を経験し、経営者として人を育て、そして第一線を退いた今なら、この言葉の重みが分かるような気がします。
The making of men
私が大手コンサルティングファームに入った頃、そこは「売上を上げる会社」ではありませんでした。もちろん利益は重要です。
しかし、それ以上に重要だったのは、人を育てることでした。
若いコンサルタントは、先輩やパートナーから徹底的に鍛えられます。
提案書の書き方。
クライアントとの向き合い方。
プレゼンテーション。
議論の仕方。
しかし、本当に教えられていたのは、スキルではありません。
「どんな人間になるか」でした。
約束を守る。
時間を遵守する。
嘘をつかない。
クライアントの利益を、自分の利益より優先する。
困難な局面でも逃げない。
部下を育てることを、自分の評価より大切にする。
そんな姿勢を、先輩たちは背中で教えてくれました。
私は、それこそが
The making of men
だったのだと思います。
Man of Integrity
当時、パートナーになる条件は、売上だけではありませんでした。
能力だけでもありません。
本当に問われていたのは、この人に組織を託せるか。ということでした。
私は、それを
Man of Integrity
という言葉で理解しています。
インテグリティとは、「誠実」というだけでは足りません。
「高潔」という訳でも少し違います。
魂を売らない人。
正しいと信じることを、損得より優先できる人。
そういう人格を持つ人です。
そして、
The making of menとは、
men of integrity を育てること
だったのだと、今は思っています。
2000年代に失われたもの
しかし、2000年代に入り、その空気は少しずつ変わっていきました。
コンサルティングファームは急速に巨大化します。
パートナーシップはコーポレーションへ。
人を育てる共同体から、アウトソーシングを中心とする巨大なビジネス組織へ。
もちろん、それは時代の流れでした。
否定するつもりはありません。
しかし私は、その変化の中で、一つの精神が薄れていくのを感じました。
The making of men という思想です。
人を育てるより、数字を追う。
人格より、成果を評価する。
教育より、効率を優先する。
その変化は、コンサルティング業界だけの話ではありません。
社会全体に広がっていったように思います。
日本の教育について思うこと
私は、この映画を見るたびに、日本の教育について考えます。
私たちは、優秀な人材を育てることには成功しました。
知識もあります。
技術もあります。
勤勉でもあります。
しかし、
Man of Integrity
を育てる教育になっているでしょうか。
有名大学へ入り、
大会社へ入り、
立派な肩書を持つ。
外から見れば、皆立派です。
何の問題もないように見えます。
しかし、その魂まで intact でしょうか。
評価を失うことを恐れ、
保身を優先し、
自分の信念を少しずつ手放していく。
人は、外側から崩れるのではありません。
内側から、自分を失っていくのです。
フランク中佐が守ろうとしたのは、まさにその「内側」でした。
私は、もうコンサルタントではありません
私は、もうコンサルタントではありません。
会社は後進に託しました。経営の第一線からも退きました。
しかし、「人を育てる」という仕事を辞めたつもりはありません。
だから、毎日noteを書いています。
知識を伝えたいからではありません。
私が長年考え続けてきたことを、少しでも次の世代へ残したいからです。
映画も、本も、音楽も、海外での経験も、コンサルティングも。
私にとっては、すべて The making of men という一つのテーマにつながっています。
フランク中佐は、一人の少年を守りました。
守ったのは、成績ではありません。将来でもありません。
魂でした。
"His soul is intact."
映画『セント・オブ・ウーマン』
人生の終盤になった今、私はようやく、この一言の意味が分かるようになった気がしています。
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