カキツバタ ~書き付け花~
京都で暮らしていると、観光客が多くて大変ですね、
と言われることが多い。
オーバーツーリズムのことである。
しかし、ものすごく影響を受けている人もいれば、
いやそれほどでも、という人も多いように思う。
私は後者で、あまり、というか、
ほとんど影響を受けていない。
影響を受けないように暮らしているとも言えるが、
御池・丸太町より北のエリアでは、
特定の観光スポットを除けば、平穏に日常が流れている。
ただひとつだけ、困ったな、と思ったことがある。
観光シーズンになると、
タクシー会社が予約を受け付けてくれないことだ。
オフシーズンであれば、
時間が多少前後する可能性はあるものの、
〇月〇日の〇時に●●に迎えに来てもらうことが可能である。
でも、観光シーズンはそうはいかない。
それがわかっていたので、母の末期がんが判明した時、
自家用車を買うことにしたのである。
用事のために購入したけれど、
母は行きたいところに連れて行ってもらえる!と
喜んでいるようだった。
抗がん剤治療で体調が不安定になる中で、
出掛けられそうな日、時間は、
想像していたよりも少なかった。
例年は、特に、ゴールデンウィーク等の大型連休は、
人混みにわざわざ出掛けることはよそうと、
自宅で過ごすことが多かった。
でも、昨年はそんなことを言っていられなかった。
一年後はどうなっているかわからないから、
という母の言葉に、
夫は専属運転手になって、
母が行きたいところへ連れていってくれた。
住宅街の中にある大田神社は、比較的落ち着いていた。
カキツバタの語源は書き付け花。
花の汁を布に直接擦り付けて染めた花のことだ。
いっぺん見てみたかった。
見られてよかった。
大田神社のカキツバタの群生をみて、
母は何度もそう言った。
