【短編童話】 桜の下の花見風呂
私の名はマリエール。
この森の中の小屋に、ヤギの八木田さんと
森の妖精キノコっちと暮らしている。
キノコっちが森の奥のお湯に浸かりに行こう
と誘ってくれた。
桜の木の下、白いお湯は湯気を上げ、
遊びに来る森の生きものたちを迎え入れていた。
早速、お湯に浸かる。
いいお湯だ……。
「マリエールがここにやって来て、3回目の桜だね」
「そうだね。早いね。3回目のお花見だ」
キノコっちは楽しそうにお湯の中で遊んでいる。
――3年前。
私は知人に裏切られ、すべてを奪われた。
ほどなく、愛する人が旅立ってしまった。
絶望の中、この森に来ていた。
初めて出会ったのがキノコっちだった。
キノコっちは私を見つめ、
「お腹が空いているの?こっちにおいしい木の実があるよ」
その木の実を口に入れると、私の頬を仮面のように
覆っていた涙が少しずつ消えていくのを感じた。
ひと口、またひと口……。
私は無我夢中で木の実を頬張った。
大きな涙が私の頬を伝い、今までの苦しみの仮面を
溶かしているようだった。
「ねぇ、キノコっち。あの時、どうして私に声を
かけたの?」
「だってマリエール、とってもお腹空いてるように
見えたんだもん。お腹空いてると苦しくて
悲しいよね」
桜は忘れず花を咲かせる。
まるで会いに来たと告げるように。
木の芽も土から顔を出す。
大地の喜びが噴き出るように。
「昨日も今日のマリエールも同じ。
優しいマリエール。ぼくはね、同じでいるように
いつも髪型を整えているんだ。変わっちゃうと
マリエールがボクだって気づかないでしょ?」
「そうだね、キノコっち。その髪型、
いつもかわいいもんね」
それにしても、キノコっちの頭は
手入れができるのか。
初めて知ってしまった。
──桜の下の花見風呂 ──
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