【掌編小説】靴跡 #せりふ三題噺
玄関に座り込む背中に髪が沿う、三年間履き続けくたびれた靴を手に見つめる、色も形も大好きで、どれも同じでしょ、みんなはそう言うけれども私にとっては違った、特別値段が高かったわけでも特注でもない、みんなの言うどこにでもある、ビットもコインもタッセルも付いていないごくごく普通の学校指定の靴、でも私にはこれが特別に感じられた、初めて見た瞬間から。
あれからもう三年あっという間だった、桜よりも早い春一番を駆け、ゲリラ豪雨にずぶ濡れになり、落ち葉の絨毯を踏みしめ、薄く張った水溜まりの氷を懐かしみながら割った。大事にしてるつもりだったのに、全然大事にできてないや。
思い出の詰まったこの靴を手放さなきゃいけないのかな。
「捨てちゃうの? ずっと一緒だったのに?」
声に振り向くも誰もいない、見慣れた薄暗い廊下の突き当りガラス戸の向こうから母の包丁の音が響く。空耳なのか、それとも自分の中の声なのか、もしかしたらこの靴の声なのかもしれない。
吹奏楽のコンクールで優勝に届かなくてみんなと泣き合った時も、憧れで大好きだった彼に屋上で告白された時も、緊張と恥ずかしさと嬉しさでまともに顔を見れず足元を見つめながら、自分の思いも伝えた。もちろんその時もこの靴を履いていて。
縫い糸のほつれ、角々の削れ、すり減った踵、少しはがれた靴先、それぞれを撫でていく、なんとか三年間履き続けられただけでもがんばったなっと感慨深くなる。
これからは大学に私服で通うから、もうこの靴は…………。
だからなに? 私服だともう履かないの? そんなのいいわけ、全然関係ないじゃん!?
「なんだか……ずるいね」
近くで靴を修理をしてくれる場所をスマホで調べる、そして彼に連絡を取って一緒に来てもらおう、無関係じゃないんだから、いっぱい聞いてもらおう、このローファーとの思い出を。
「お母さん! ちょっと出かけてくるね!」
参加を! させて! もらいました! せりふ三題噺!!
■セリフ
「ずるいね」
■三題
・屋上
・春一番
・ローファー
"ずるいね" の使い方がずるいと自分で思ってしまうほどにずるい……そして、うまくまとめられない……あと語彙力と表現力の無さがチクチクと刺さっています、随分と前から✨ ┗┻( ゚Д゚)┻┛⌒✨
