グランデサイズの恋心
唐突だが、僕はショートカットの女性が好きだ。
そして何故そんなことを突然言い出したのかと言えば、どうやら僕はおかしな世界に迷い込んでしまったからだ。いつのまにか。
この世界は、僕が元々いた世界とそう大きな違いはないように思える。
景色も、言語も、食べ物やサービスも。
PayPayだって使える。
ただ、いないのだ。
この世界にはショートカットの女性が。
別段困ることはないと思うだろう。
その通り。困ることはない。
困りはしないがトキメキがない。
たかが髪型、されど髪型。
好みのタイプの女性が、この世界には「存在しない」のだ。
大げさに聞こえるかもしれないが、案外堪える。
とにかく、そんな気持ちを薄っすら抱えながら、今はこの世界で生活している。
*
今日は休日。
僕は朝食と昼食を兼ねて、小高い丘の上にある「草原が見渡せるカフェレストラン」にやってきた。
ここのペンネアラビアータが絶品なのだ。
まだ早い時間なので店は空いている。
窓際の1人席を陣取り、カウンターでペンネアラビアータを注文した。
ほどなくして料理は運ばれてきた。
ここからは草原の景色より目の前のご馳走だ。
ほぼかき込むようにして完食した。
男なんてこんなもんだ。
さて、混み出す前に席を空けようか。
いつものように冷たい飲み物をテイクアウトして帰ろう。
食器を返却口に返しに行きつつ、飲み物を注文しにカウンターへと向かった。
「ご注文お伺いしますね」
店員さんの爽やかな対応には、ささやかながらいつも救われる。
「えーっと、テイクアウトで…水出しアイスコーヒーの…」
カウンターのメニューを眺めながら注文していた僕が、ふっと顔を上げた時、
…天使がそこにいた。
「え、あ、ショート……いや、グランデサイズで」
この世界にもショートカットという概念は存在したんだ。
それにしても、いつもはせいぜいトールサイズなのに、なんでグランデサイズを頼んでしまったのか…
ちょっとでも大きく見せたいみたいなつまらない見栄だろうか。
ま、そんなところかもしれない。
男なんてそんなもんだ。
