これっきりですか?/エッセイ
半年に1回くらいのペースで、20年以上通わせてもらっているラーメン屋さんがある。
先日もまさに半年ぶりに訪れた時、店内に小さな張り紙があった。
「今月末をもって閉店させていただきます。長らくのご愛顧まことにありがとうございました」
私たちは時々、
物事には終わりがあるということを忘れてしまう。
これまで、あたりまえに存在していたものは、これからもあたりまえのように存在すると錯覚してしまう。
今回は幸い、張り紙を見ることができたので、「あぁ、この味も今日で最後か」
そう思いながら、ひと口ずつゆっくり味わうことができた。
これが少しズレていたら、私はシャッターの閉まったその店の前で立ち尽くすことになっただろう。
ほとんどのことは、
いつも過ぎてから気付く。
あれが最後だった、と。
子どもと最後に手を繋いだ日。
母親の作った味噌汁を最後に飲んだ日。
彼女の寝癖を直してあげた日。
その時は、「これが最後」だなんて思ってもいない。
しかし、確実に最後の日は訪れる。
私たちは時々、
かけがえのない日々の中にいることを忘れてしまう。
「これっきりですか?」
そんな問いを口にすることもないまま、
最後の日は静かにやってくる。
「これっきり」だと分かっていたなら、
私たちはもっと丁寧に生きるのだろう。
けれど人生は、いつも教えてくれない。
帰り際、店主に「ごちそうさまでした」と言った。
20年分の「ごちそうさま」だった。
こちらの企画に参加させていただきます。
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