甘い工作/ショートストーリー
せりふ三題噺
「で、感想は?」「傘」「グミ」「地平線」
夏休みの初日。小学生の娘がメモを見せながらこう切り出してきた。
「お母さん、夏休みの工作に使うからここに書いたもの買ってきて」
メモの中身は模造紙や折り紙などそれらしいものもあったが、間にちょいちょいお菓子が登場するのだ。しかもそれなりの量だ。
…我が子ながら何と言う悪知恵か。
宿題に必要だと言えば、母は疑いもなくメモのとおりに買ってくるだろうという魂胆らしい。
しかし、ここはあえて乗ってみることにした。
どのみち作り終えたものを見れば分かることだし、その悪知恵も少し可愛らしく感じたことも事実だった。
*
…しかし、思った以上の量だ。
私はスーパーから百均、そしてまた別のスーパーへと周り、何とかメモに書かれた全てを揃えた。
そこそこ金額も膨らむ中、我ながら頑張ったと思う。
もしかすると、夏休みに家にいてやれない申し訳なさをこれで埋めようとしていたのかもしれない。
大きな袋2つ分を差し出すと、娘は屈託のない笑顔で「ありがとう!お母さん」と喜んだ。
そこには悪知恵を感じさせる空気は無い。
…この子は稀代の詐欺師なのかもしれない。
そうして詐欺師は早速それをアジト(自室)へと運びこんだ。
ハサミなども持ち込んでいったので、一応何かを作っているようではあった。
鶴の恩返しのお爺さんのようなヘマはしまいと、しばらくは外からそっと応援することに決めた。
*
それから10日ほど経った頃。
「ジャジャーン!」
娘の口が完成のファンファーレを奏でた。
それは私の「想像」を超えた「創造」だった。
ビスケットの大地。
砕いたビスケットの砂浜。
その先に広がる、色とりどりのグミの海。
デスクライトの太陽が、グミの地平線を眩しく照らしている。
そして世界の上には、黒い傘が開いていた。
内側には無数の星。
傘を閉じれば昼、開けば夜。
そこから飴とマシュマロの雨が、チョコレートの森に降り注いでいる。
「どう?すごいでしょ!」
娘は漫画みたいにわかりやすく胸を張って言った。
娘の悪知恵を疑った自分を心から恥じた。
「で、感想は?」
娘はキラキラした目で私に聞く。
「すごいじゃない!すっごく素敵よ!」
嘘偽りない言葉だった。
いや、少しだけ偽りがあったとしたら。
私はその瞬間、
この壮大な地平線を、どうやって学校まで運べばいいのかを真剣に考えていた。
こちらの企画に参加させていただきました。
