40代婚活体験記【#84】婚活の初顔合わせは、オンラインで十分だったと気づいた日|12年婚活して238人とお見合いした40過ぎの女がスピード婚した話
画面越しに映し出された人間性
2020年10月――。
都内のコロナ感染者数は一時的に落ち着きを見せていたものの、11月に入ると再びその数はじわじわと増加し始めた。ニュースでは連日、医療体制の逼迫が取り沙汰され、人々の間に目に見えない不安が漂っていた。
そんな空気の中で、私は自然と慎重になっていった。
会うかどうか迷う相手には、まずオンライン通話を提案する。画面越しから人となりを見極め、もしも気が合いそうだと感じたら、そのときに初めて対面デートを提案する。そんな私なりの婚活戦略を立てたのだった。
今回、オンライン通話をすることになったのは『ゼクシィ縁結び』でマッチングした2歳年上で43歳のMさんだ。
国立大学を卒業し、一見華やかにも思える化粧品開発の仕事に就いていた。年収は1000万円。バツイチという婚歴を除けば、申し分のない条件を備えた人だった。
メッセージのやりとりはスムーズで、知的な言葉の端々から、大人の余裕のようなものが伝わってきた。だが、「感染リスクを負ってでも、直接会ってみたい」と思えるほど、気持ちの盛り上がりを感じなかったため、私はオンライン通話を提案したのだった。
そして、オンライン通話の当日――。
私は自室に差し込む秋の西日を背に、Amazonで購入した三脚にスマートフォンを丁寧にセットした。画角の中には、クッションを2つ置いたソファと観葉植物。余計なものは映らないように調整し、インカメラで自分の姿を映しては、照明の当たり具合や髪の乱れなどを微調整した。
クローゼットから選んだのは、オンラインでも明るく映える赤いニットだ。レッド系のルージュを合わせると、画面にぱっと華が咲いたように感じられた。
「オンラインとはいえ、第一印象は大切」
そう自分に言い聞かせながら、スマートフォンの時計をちらりと見る。約束の時間が近づくにつれ、小さな不安が込み上げてきた。
――もしかしたら、ドタキャンされるかもしれない
だが、その懸念は杞憂に終わった。
約束の時間ぴったりに、Mさんの顔がスマートフォンの画面に映し出された。プロフィール写真と同様に、眼鏡を掛けた知的な雰囲気の男性だった。
「はじめまして」
その一言で、私は緊張していた肩の力がすっと抜けていくのを感じた。
会話は互いの仕事の話を中心に、終始なめらかに進んだ。沈黙が訪れることもなく、時間はあっという間に過ぎていく。
――変な人じゃなくてよかった……。これは、直接会ってみたいかも。
50分ほど経った頃、私は意を決して切り出した。
「もしよろしければ、今度、お茶でもいかがですか?」
その瞬間、画面の向こうのMさんの表情が、ほんの一瞬、曇ったように見えた。
「まだお返事はできないです。いやぁ、実はいろんな方とやりとりしていて、まだ選びきれないんですよ。もう少し、絞り込めるまで待ってもらえますか?」
――え?
まるで品定めでもするかのような、その言葉に、私は凍りついた。
「そうですか、では結構です」
言い終わるのとほぼ同時に、私は通話終了ボタンを押していた。
画面は即座に暗転し、残されたのは、やり場のない失望感だけだった。
初対面でリラックスし過ぎる男
そして、翌週――。
私は『ブライダルネット』で見つけた新たな出会いに、わずかな望みを託していた。
相手は、私と同い年の42歳、バツイチのEさん。国立大学卒で、水道局に勤務しているという。年収は600万円でぽっちゃり体型。
安定した職業は魅力的だったが、これまでの経験上、フリーランスである私と公務員タイプの男性とは、なかなか噛み合わないことが多かった。
それでも、いいねを送れる男性が少なくなってきた今、「公務員の男性とは合わない」という過去の経験には目をつむっていた。何度かのやりとりの末、私は再び、オンライン通話の約束を取りつけた。
そして迎えた当日。
スマートフォンを手に取り、通話を開始したその瞬間、私は目を疑った。
画面に映るEさんの画角が明らかに不自然なのだ。
ーーもしや……
いやな予感は的中した。なんと布団の上に仰向けに寝転がったまま、スマホの画面を見ていたのだ。
背景には、干しかけのTシャツや靴下など、生活感のあふれる洗濯物が映り込んでいる。見てはいけないものを覗いてしまったような気持ちにさせられた。
「もしかして……寝転がっていますか?」
思わず、率直な疑問が口をついて出た。
「ええ、お風呂上がりで、ちょっと眠くなっちゃって……」
その瞬間、心の中に冷たい水が流れ込んだようだった。初対面で、しかも画面越しの出会いにこの姿勢――。
「初対面のオンライン通話で、それはかなり失礼じゃないですか?」
自分の声が、少し震えていることに気づく。
その冷ややかさに、Eさんは笑って答えた。
「そうですかね。じゃあ、起きますよ。よいしょっと」
もぞもぞと身を起こした彼の姿が画面に映る。そこに現れたのは、水色のよれたパジャマ姿だった。私は完全に言葉を失った。もはや会話する気力も残っていない。
形式的な言葉を交わし、20分ほどで通話を切り上げた。スマートフォンの画面が暗転したのを確認すると、私は心の底から深く息をついた。
オンライン通話というシステムが、この時代にあって本当によかった。もしこの2人と、直接会っていたら、どんな気持ちになっていたのだろう。想像するだけでも、背筋が冷えるようだった。
会わないからこそ、見えるものがある
今回の出来事で学んだのは、オンライン通話には、「人間性スキャン」のような力があるということだ。自室という最も気が緩む空間だからこそ、装いも態度も、自然と本性がにじみ出る。画面は、心のスナップショットを映す鏡なのだ。
婚活疲れを防ぐためにも、会わない段階で気づけることは、自分の大切な時間と心身を守るための大切な選別作業なのだと思う。
オンラインの向こう側で、私は「会わなくてもいい人たち」と出会い、そして別れた。それは、決して無駄ではなかった。
そう気づかせてくれたこの二人に、ほんの少しだけ感謝してもいいと思えた。
◇◇◇
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