鯉のぼりの一番太鼓|#下書き再生工場(約2800字)
こちらの企画に参加させていただきました。
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お題は『鯉のぼりの一番太鼓』です。
太郎の村には、春になると旅芸人がたまに立ち寄り、都で流行っているという演劇や曲芸などを見せてくれた。
太郎はそんな旅芸人の軽業曲芸が大好きで、いつか自分も彼らのように生きてみたいと思っていた。道の途中でとんぼ返りの練習をしたり、柿や林檎を取りに木を登ったら宙返りして地面に降りたりした。太郎の身軽さは村でも評判になり「太郎も親父さんのような立派な屋根葺き屋になるんだな」と思われていた。村人の言葉に否定はしなかったが、しかし太郎の心は軽業師になることでいっぱいだった。
今年の春も旅芸人たちが村を訪れてきた。太郎は父に、実は軽業師になりたいことを告げると、意外にも快諾してくれた。父も太郎が軽業師になりたいことには気がついていたのだ。屋根葺きの危険な仕事も喜んで受けているが、普段から高いところへ登りそこから宙返りで飛び降りたり、朝晩暇さえあればとんぼ返りやら綱渡り的なことをしたり… 本気なんだなと思っていた。
「太郎、今村に来ている旅芸人さんに弟子入りできるか、父さんからもお願いしてやるよ」
「ありがとう。お父!」
旅芸人は修行は厳しくすぐに舞台には立てないことを説明し、それでも良ければ仲間に入れてやると言った。
「俺、なんでもします。連れてってください」
「太郎、頑張るんだぞ」
父は太郎を笑顔で送り出したが、その夜は珍しく大酒を飲みわんわんと泣いて眠った。
そんなことはつゆ知らず、願いの叶った太郎はにこにこと旅芸人一座と道中を共にしていた。新米下っ端の太郎は雑用…道具の出し入れや飯炊き、風呂焚きありとあらゆることをポンポンと注文される。覚悟はしていたが、軽業師としての修行が全然ないことには不満だった。
「あの… 軽業の練習とかは、いつ教えていただけるのですか?」
「は?何言ってんだ?そんなのは、ひと通り一人前に仕事ができるようになってからだろうが。俺たちの仕事道具の名前もしまう場所も覚えきれていないお前に、業を教えるなんて百年早いんだよ!」
太郎は…一日も早く一座の仕事内容を全て覚えて、軽業以外のことにも気を配るように努めた。そして、一座の人たちが仕事をする前に行なっている準備体操みたいなものを、見よう見まねで自分もこっそりやってみた。棒立ちのまま身体を前に倒し両手を地面にペタリとか、座って両足をガバッと広げ、やはり身体を前に倒して地面にペタリとか… なんとなく身体が柔らかくなる気がする。
「お前、何してる!」
先輩芸人の真似をしていたことを咎められたと思った太郎は、もう二度としないと謝った。すると…
「いや、違う。そんなやり方では足りない。もっと、こうするんだ。見てろ」
近くにあった大きな石に乗り、足をまっすぐ揃えて身体を前に倒して… 先輩芸人は石の半分以上まで指先が届いていた。
「やってみろ!」
やってみたが先輩ほどは指先が届かない。
「ふん、素人が。百年早いんだよ」
それでも怒っているようには見えなかった。そして、少しは自分のことを受け入れてもらえていることを感じた。
それから二回の春を迎え、三回目の春には久しぶりに太郎の村へ興行に行くことになった。まだ太郎には大きな出番がないが、それでも舞台衣装を着て演劇の斬られ役とか曲芸の小道具渡しのような役をもらえるようになっていた。
「お父は元気かな」
自分を送り出してくれた時の笑顔を思い出し、まだ端役ながらも頑張っている姿を見せられたら…と思いながら村に着いた。
なんだか村の様子がおかしい。村人たちは変わらないが、数軒の家屋が何故かくたびれた感じがする。お父がいればすぐに直しているはずなのに。
「太郎!太郎だね、源さんのところの… 」
「お久しぶりです。お父は元気ですか?」
「あぁ、ちょっと怪我はしてるが元気だよ。太郎が出るなら喜ぶだろう」
「…」
太郎は自分にも何か演目をひとつでも欲しいと思ったが、そんなことはとても言い出せない。
そんな最中、村中の子どもたちが大騒ぎしていた。
「鯉のぼりが絡まって大変だよ〜!」
「誰か直してくれよ〜!」
村の広場の脇に建つ柱に、今の季節は鯉のぼりを飾っているのだが、風のいたずらなのかてっぺんの吹流しと真鯉たちが絡まっていた。
「源さんは怪我してるからなぁ…」
「紐を切っても、降りてくるかわからんなぁ」
すると旅芸人一座の先輩が太郎に声をかけた。
「お前、この衣装を貸してやるから、鯉のぼり直しに行って、ついでに柱のてっぺんで逆立ちでもしてやれ!」
「えっ?鯉のぼり直すのはできると思いますが、てっぺんで逆立ちは…」
「お前ならできる!絶対できる!」
太郎はいつもとは違う、少し派手な法被を着せられ、ちょっと化粧などもされて柱の前に送り出された。
一番太鼓が高らかに鳴る。
「今日の演目、まず前座といたしまして鯉のぼりの柱昇りと逆立ちをお見せいたします」
太郎は鯉のぼりを目指して昇り、糸の絡まりを直した。
「お兄ちゃん、ありがとう〜!!」
子どもたちから声援をもらい、元気をもらった太郎は更にてっぺんを目指し、鯉のぼりの泳ぐ合間を縫ってパッと一瞬だけ逆立ちをした。
「すげ〜ぞ、兄ちゃん!日本一だ」
「落ち着いて降りてこいよ〜!」
なんと仲間の旅芸人一座から声援が届く。そして村中からの拍手…
太郎は無事に地面にたどり着くまで、そしてたどり着いた後まで拍手や声援に包まれていた。村人の中には父の姿も見えた。軽く足を引きずりながら太郎の方へ近づいてきた。
「太郎、よくやったな。素晴らしい軽業師になった。父さんは嬉しいよ」
「お父…」
太郎はそんな父を見て、少し胸が痛くなった。せめて父の足が治るまで、村に残ることができないかどうかお願いしようと思った。
「太郎、お前にこの衣装やるからこの村に残れ。お前の仕事はこの村の中にある。俺たちもお前と一緒に仕事ができて、とても楽しかったけれどな」
「先輩…」
太郎は感極まって泣いてしまった。それからの数日は村での興行を手伝いながら村の屋根葺きをし、少しずつ村の姿を元に戻そうと努めた。
「太郎、また数年後に会おう。その時はお前の仕事っぷりをしっかりと見せてもらうからな」
「はい。今まで本当にありがとうございました」
そして太郎は… 毎年鯉のぼりの季節になると、村の子どもらの叩く太鼓の音に合わせて柱に昇り、上で逆立ちをするようになった。
◇◇◇
「編集長『鯉のぼりの一番太鼓』書きました。こんなのでどうですか?」
「…… なんちゃって日本昔話ね。無駄に長いし。私は鯉の滝登り伝説の、なんかこう…ショーレースが始まる時の一番太鼓的なものを期待していたんだけど。没よ、没。書き直して!」
マジで、こんな話で良いでしょうか…
