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まるみのキャンパスライフ物語 第4話


「神田の夜、安い酒とロックの話」
―――
「お前ら、最高だったぞ!!」
―――
演奏が終わった直後。
先輩たちの第一声が、それだった。
―――
「なんだあのドラム!?」
「めちゃくちゃなのに成立してるの意味わからん!」
「キース・ムーンかよ!!」
―――
(……やっぱり?)
まるみは、少しだけニヤッとする。
―――
「いや、あれは褒めてるからな!」
「分かってます!」
―――
冴子は笑いながらギターを片付け、
加奈子は静かにベースを拭いている。
でも、3人とも分かっていた。
―――
手応えがあった。
―――
「今日、打ち上げな」
スネ子が言う。
「神田」
―――
(神田……?)
―――
その夜。
まるみたちは、電車に揺られていた。
上野から少し南。
サラリーマンの街。
ネオンと看板がひしめき合う場所。
―――
神田。
―――
入ったのは、
どこにでもありそうな安い居酒屋。
古い看板。
少しベタつくテーブル。
壁に貼られたメニュー。
―――
「とりあえずビール!!」
「はい乾杯!!」
―――
ガチャン。
グラスがぶつかる音。
―――
「かんぱーーーい!!」
―――
その瞬間、
一気に“仲間”になった気がした。
―――
「いやー、マジでびびったわ」
スラ子が珍しく笑っている。
「あのドラム、完全に暴走してたな」
「すみません!」
「いや、いい意味でな」
―――
スネ子も口を開く。
「ジミもああいうの好きだと思うぞ」
「本当ですか!?」
「知らんけど」
―――
(適当だなこの人……)
―――
料理が運ばれてくる。
枝豆。
唐揚げ。
ポテト。
どれも安い。
でも――
なぜか、うまい。
―――
「まるみさ」
冴子が言う。
「なんでThe Whoなの?」
―――
少しだけ、間が空く。
―――
「父親が……よく聴いてたんです」
―――
小さい頃。
夜。
リビング。
古いスピーカーから流れる音。
―――
ドラムが暴れていた。
―――
「なんだこれ」って思った。
でも、気づいたら、
その音が好きになっていた。
―――
「キース・ムーンって、自由じゃないですか」
―――
まるみは、言葉を探しながら話す。
「正確じゃないし、むしろ壊してるのに、
 でも、バンドとして成立してる」
―――
「……分かる」
加奈子が、ぽつりと言う。
―――
「ジョン・エントウィッスルもそう」
「え?」
「ベースなのに、主張が強い」
―――
(この人……やっぱり分かってる)
―――
冴子も、グラスを傾けながら言う。
「ピートもな」
「ですよね!」
「コード荒いし、雑なのに、
 あれで成立してるのが意味わからん」
―――
3人の会話が、自然と噛み合う。
―――
(あ……)
―――
まるみは、気づく。
―――
音楽でつながってる。
―――
スネ子が横から割り込む。
「ジミの方が上だけどな」
「出た」
―――
スラ子も参戦する。
「いや、速さならメタルだろ」
「また始まった……」
―――
議論が始まる。
でも――
それが楽しい。
―――
「結局さ」
冴子が言う。
「好きなもんやってるやつが一番強いんだよ」
―――
その一言で、
一瞬だけ、場が静まる。
―――
(好きなもの……)
―――
まるみは、自分の手を見る。
少しだけ、赤くなっている。
さっき叩いたドラムの跡。
―――
(これ、好きだな)
―――
はっきりと思った。
―――
「なあ」
まるみが言う。
「このバンド、本気でやりません?」
―――
冴子が笑う。
「いいよ」
加奈子もうなずく。
「やろう」
―――
その瞬間。
居酒屋のざわめきの中で、
ひとつのバンドが生まれた。
―――
安い酒。
安い料理。
でも――
ここで交わした言葉は、
たぶん、一生忘れない。
―――
東京の夜は、まだ続く。
そして、
まるみの物語も――
ここから、加速する。
―――
第5話へ続く。
―――
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