妖怪・そっぴ取り
「こんな冬の日には、そっぴ取りお化けがでるようだ」
───はい、すみません。
そっぴ取りという妖怪やお化けは存在しません。
その代わりそういった怪人はあります。
私です。
入眠時幻覚の記事に軽く記したが、私は大昔に強迫症の気があった。
特に十代に入ったばかりの頃に一番に悩んでいたことが、これの亜種である、俗に皮膚摘み取り症といわれるものだった。
それというのは、ざっくばらんにいうとササクレなどを取らずには居られないという状態のことです。
なんだ、そんなこと、と思う人間もあるかもしれないが私にとって深刻な悩みだった。
ササクレを綺麗に取ると、どういう脳内物質が出るのか分からないが他では得られない強い快感が走るので、他にやらなければいけない用事があってもなかなか止められない。
特に小爪と呼ばれるタイプのササクレを綺麗に抜いたときの快感というのは、筆舌に尽くし難いものだった。
ササクレを取りきると、なんと今度はササクレを作ろうとしてしまう。
私なりに対策を考えて手袋を装着して拳を握りしめてじっと耐えるということも試したが、結局は誘惑に負けて手袋を外してしまった。
血が滲んでも止められず、泣きながらササクレを摘む十一歳だった。
そんなこんなで小学校高学年を過ごしたが、中学に上がり、起立性調節障害と入れ代わりに皮膚摘み取り症は治まった(加害恐怖や確認行為などは大人になるまでにしばしば現れた)。
紆余曲折経て大人になり今では強迫症と呼べるような症状はない。
ないのだが、その片鱗のようなものはときどき現れる。
親しい人間と歓談していると、だんだんその人間の手が気になって見てしまうのだ。それで、
あ、ササクレ見つけた。摘みたいな。
という軽い衝動に駆られる。
じりじりとその衝動が大きくなる。
ごく親しい人間相手なら冗談で、
「そっぴが気になる!取らせて!」
「きゃー、いやだあっ(手を隠す)」
というやり取りをすることもある。
特に乾燥してくる冬期間はそういうことが増える気がする。今冬、
そっぴ取りお化け、もとい、そっぴ取り怪人に遭遇してしまい、気に入られないように御用心ください。
「そっぴのあるやつあいねがー」
