48.新しい居場所
次の日の朝。
俺はこれまでにないほど、気持ちの良い目覚めを迎えた。
ゆっくりと目を開ける。
見慣れない天井。
差し込む朝日。
一瞬だけ、「ここはどこだ?」と戸惑う。
「……そうだ」
昨日、寮へ引っ越してきたんだった。
思わず苦笑しながら身体を起こす。
布団の中では、フェニックスがまだ気持ち良さそうに丸くなって眠っていた。
「起きるぞ」
優しく声を掛けると、小さな身体がもぞもぞと動く。
「キィ……」
眠そうに目を擦るような仕草をしたかと思えば、そのまま俺の肩へ飛び乗ってきた。
その様子に思わず笑みがこぼれる。
身支度を整え、新しく支給された黒いロングコートへ袖を通す。
窓から吹き込む朝風に、裾がふわりとなびいた。
鏡に映る自分を見る。
少しだけ、昨日までとは違う自分に見えた。
「……今日は、良い日になりそうだな」
フェニックスも同意するように、小さく鳴いた。
「キィ!」
***
ベルフォード商会の本部へ入ると、入口近くでリゼリアさんが待っていた。
俺に気付くと、柔らかく笑う。
「おはよう」
「おはようございます」
挨拶を返すと、リゼリアさんは少し困ったように笑った。
「そんなに固くならなくていい。今日から同じパーティなんだ。敬語はいらないぞ?」
その言葉に、思わず言葉が詰まる。
確かに、憧れの人だからといって、いつまでも敬語では距離が縮まらない。
仲間になる以上、少しずつでも変わらなければ。
「えっと……」
少し照れながら頭を掻く。
「……わ、分かった」
ぎこちない返事だった。
それでもリゼリアさんは満足そうに頷く。
「うん。それでいい」
そう言うと、軽やかな足取りで歩き始めた。
俺もその後を追う。
「今日はメンバー全員の予定が空いていてな。せっかくだし、顔合わせをしようと思って」
「……少し緊張するな」
思わず本音が漏れる。
「ははっ、大丈夫だ。みんな優しいから」
廊下を曲がる。
すると、景色が一変した。
壁一面に並ぶ巨大な本棚。
ぎっしりと詰め込まれた魔導書や資料。
思わず足を止める。
「おぉ……」
《白銀の灯火》の資料室よりも、明らかに蔵書が多い。
自然と見入っていると、隣から小さな笑い声が聞こえた。
「な、何?」
「いや」
リゼリアさんは肩を揺らしながら笑う。
「あの時、酒場で弱音を吐いていたレンが、今は子どもみたいな顔をして驚いているのが、少し可笑しくてな」
その言葉を聞いた瞬間、あの夜の記憶が鮮明に蘇った。
『……あんたみたいな天才には、僕みたいな弱者がどんな思いで必死にしがみついてきたかなんて、分かりっこないんだ!!』
思わず顔をしかめる。
「あの時は、本当にごめん。酒も入っていたし、何より……余裕がなかった」
リゼリアさんは首を横に振った。
「気にしていない。あの時のレンは、自分の居場所を失ったばかりだった」
「…」
「苦しかったんだろう?」
その優しい声に、胸の奥が少しだけ温かくなる。
「……ありがとう」
短く礼を言うと、リゼリアさんは照れ隠しをするように前を向いた。
「さあ、着いたぞ」
目の前には、一枚の木製の扉。
その横には、金色の文字でこう書かれていた。
《蒼天の軌跡》
リゼリアさんはノブへ手を掛ける。
「普段はここで作戦会議をしたり、休憩したりしている」
中から誰かの笑い声が聞こえてきた。
「……どうやら、全員揃っているみたいだな」
そう言うと、リゼリアさんはゆっくりと扉を開いた。
