娘のはじめての生理、どう迎える?——元保健体育の先生が「授業では時間が足りなかったこと」を全部書く
「うちの子、まだ小3だし。生理の話はもう少し先でいいよね」
そう思っているお母さんに、まずひとつだけ数字を見てほしいのです。
初経の平均年齢は12.2歳。——これだけ聞くと「6年生ね、まだ先」と感じますよね。でも実際は小4で20人に1人、小5では4人に1がもう経験しています(※1)。
平均を待っていたら、間に合わない子が確実にいる。だから専門家は小2〜小3から家庭で話し始める」ことをすすめています(※2)。
私は16年間、中学校と高校で保健体育を教えてきました。教室で生理の仕組みを教えるとき、いつも思っていたことがあります。
「私の目の前の子たちは、ほぼ大半がもう生理を経験している。この話、本当はもっと前に、もっとゆっくり、家でしてもらえていたらなあ」
授業は50分。
しかも男子もいる教室で、一人ひとりの「うちの場合」には触れられません。私が黒板の前で話せなかったこと、本当は伝えたかったことを、今日は全部ここに書きます。
第1話:ある日突然、はやってくる
想像してみてください。
小学生の娘が、トイレからなかなか出てこない。「お腹でも痛いのかな?」
しばらくして声をかけると、消え入りそうな声で「ママ……なんか、パンツがよごれてる」。
——その瞬間、実はお母さんの頭も真っ白になります。「えっ、もう?」「まだ何も話してない」「最初に何て言えば……」。
初経の日にあわてているのは、娘だけではないのです。
だからこそ、この記事は「その日」より前に読んでほしいのです。
このとき娘の頭の中にあるのは「病気かもしれない」「怒られるかもしれない」という恐怖です。事前に何も知らなければ、初経は「お祝いごと」ではなく「事件」として始まります。
そもそも日本では、初潮は古くから「お祝いごと」とされてきました。赤い色には魔除けの力があると信じられ、江戸時代から続く風習として、お赤飯を炊いて娘の成長を祝う家庭が多くあったのです(※3)。
でも今、実際にお祝いをした家庭は約3分の1。約65%は「特にお祝いはしなかった」と答えています(※3)。
海外に目を向けても、6か国の女性に聞いた記事では、家族でお祝いする文化が根づいていたのはブラジルだけでした(※4)。
つまり、「祝うのが正解」でも「祝わないのが正解」でもない大事なのは形式ではなく、娘本人がその日をどんな気持ちで記憶するのかです。
実際、初経を「怖かった」「誰にも言えなかった」と記憶したまま大人になった女性は少なくありません。
私自身、教室や保健室で、たくさんの女子生徒からその「最初の記憶」を聞いてきました。
そして、その記憶は、その後の生理観——自分の体との付き合い方——を何十年も左右します。
逆に言えば、人生でたった一度の「最初の迎え方」で、娘と体の関係も、娘とお母さんの関係も変わるのです。
第2話:生理の仕組みは「お部屋の話」で伝わる
授業ではホルモン名や子宮内膜という言葉が出てきます。
でも家庭では、こんな言い方で十分です。
「あなたのおなかの中には、いつか赤ちゃんを育てるかもしれない、小さなお部屋があるの。赤ちゃんはおなかの中で長い間過ごすから、お部屋のベッドはふかふかがいいよね。だから毎月、ふかふかのベッドを用意するの。赤ちゃんが使わなかった月は、そのベッドをお片付けして、次の新しいふかふかベッドの準備をする。そのお片付けが、生理」
ポイントは3つだけ。
1.「血が出る」ではなく「お片付け」——「血」という言葉が先に立つと怖くなる。出てくるものの正体は「役目を終えたベッド」だと伝える
2.病気じゃない、けがでもな——体が正しく働いている証拠だと必ず言う
3.毎月来る、でも最初は不規——ベッドの準備が上手にできる月もあれば、ちょっと時間がかかる月も、早く準備できすぎちゃう月もある。「来たり来なかったりしても心配いらない」を先に言っておくと、2回目以降の不安が消えます
「妊娠」の詳しい話と無理につなげる必要はありません。聞かれたら答える、でいいと思います。
仕組みの説明は3分で終わります。大事なのはそのあとの「安心の設計」です。
第3話:先回りの準備が「お守り」になる
初経の前には、たいていサインがあります(※5)。
・胸がふくらみ始める(初経のおよそ1〜2年前)
・身長がぐんと伸びる(平均で身長152cm・体重42kg前後が初経の目安といわれます)
・おりものが下着につくようになる
サインが見えたら娘専用のポーを一緒に作ってください。
中身は、ナプキン2〜3枚と、替えのショーツ、小さく畳んだナイロン袋。
最近は100均にもかわいいポーチがたくさん売っています。
一緒に選ぶのも楽しいですね。
そして、こう言って渡します。
「これはお守り。学校で始まっても、これがあれば大丈夫。困ったら保健室に行って、先生に『ポーチ持ってます』って言えばいいからね」
このひと言には仕掛けがあります。
「学校で始まるかもしれない」という娘が一番怖がっている場面を先に大人が口にして、解決策までセットで渡していのです。実際、学校で生理の話を聞いたあと、不安のあまり「いつか」のためにずっとナプキンをつけて登校している子もいるくらいです。
不安は、名前をつけて対策を渡された瞬間、ただの「準備済みの予定」に変わります。
もうひとつ。「持っているのを見られたら恥ずかしい」とコソコソしなくていいのも、お守りの良さですお守りだと思えば、カバンに入っていて当たり前のもになります。
おりものの話も忘れずに。
「下着につく白っぽいものは、体のお掃除係。汚れじゃないよ」——これを知らないまま思春期を迎えて、一人で悩んでいた子もいます。
第4話:やりがちだけど、やめてほしいこと
よかれと思ってやったことが、娘を傷つけることがあります。
教え子たちの声から、代表的なものを3つ。
① 本人に確認せずお赤飯を炊く
「家族全員に知られた」という事実は、12歳前後の女の子には公開処刑に近いことがあります。お祝いしたい気持ちは素敵です。でも祝うかどうか・誰に伝えるかは本人に決めさせてくださ。
② 「これで大人だね」「赤ちゃんが産める体になったね」
プラスに受け取る子もいますが、「まだ子どもでいたいのに」と感じる子には重すぎる言葉です。体の変化と心の準備は、同じ速さでは進みません。
また、性教育をきちんと受けていない場合、言葉だけが先行し、望まない妊娠につながるかもしれません。
③ 父親・兄弟に勝手に共有する
「お母さんがいないとき困るかもしれないから、お父さんにも話していい?」必ず本人に聞い、嫌がったら尊重する。この確認ひとつで「私の体のことは、私が決めていい」という感覚が育ちます。
——これは性教育の核心です。
そのまま使える声かけ集
最後に、場面別の「言葉の型」を置いておきます。手帳の片隅に書き留めておいてください。
初めて話を切り出すとき
「ママが子どものころ、誰も教えてくれなくて困ったことがあってね。あなたには先に話しておきたいの」
初経が来た瞬間
「教えてくれてありがとう。体がちゃんと働いてる証拠だよ。痛いところはない?」
最初に言うのは「おめでとう」より「ありがとう」。打ち明けた勇気に応える言葉です。
「なんで私だけ早いの?」と聞かれたら
「始まる時期は身長と同じで、人それぞれ。早いのも遅いのも、どっちも正常だよ」
「痛い」と言われたら
「我慢が偉いわけじゃないからね。つらいときは薬も病院もある。大人になってもそれは同じ」
そして最後にひとつ。
大人になった今なら分かると思いますが、生理といっても、全員が同じ経験をするとは限りません母親の私がそうだったから、は、娘がそうである理由にはなりません 決めつけで話さない——これも忘れずに。
おわりに——保健の授業の、伏線回収
教員時代、授業のあとに女子生徒がぽつりと言ったことがあります。
「先生、私、お母さんとそんな話、したことなかった」
知識は教科書にもネットにもあります。
でも、「あなたの体に起きることを、私はちゃんと知っているよ。いつでも聞いていいよ」というメッセージだけは、家庭でしか渡せません。
娘さんの初経は、体の話であると同時に、「困ったときにこの人に話していいんだ」という信頼の初経験でもあります。
その最初の相手に、親のあなたがなれますように。
あの日の保健の授業では時間が足りなかった話を、これからも少しずつ書いていこうと思います。
※お子さんの発育に心配がある場合は、小児科・婦人科にご相談ください。
出典
※1:初経年齢の分布(小4で約5%・小5で約25%)…大阪大学・日野林俊彦教授「全国初潮調査」に基づく解説記事(CHANTO WEB) https://chanto.jp.net/articles/-/201541
※2:家庭での初経教育の開始時期(小3までに)…講談社コクリコ・専門家監修記事 https://cocreco.kodansha.co.jp/cocreco/general/health/seikyoiku/qql4N /東京すくすく「初めての生理」 https://sukusuku.tokyo-np.co.jp/life/50224/
※3:初潮祝いの由来と実施率(約65%が「しなかった」)…CHANTO WEB https://chanto.jp.net/articles/-/205903
※4:海外6か国の初経の祝い方…grape「『初めての生理、お祝いした?』海外6か国の女性に聞いてみた」 https://grapee.jp/946883
※5:初経のサイン・平均身長152cm…産婦人科医監修「命育」 https://meiiku.com/howtonavi/period/ ほか
