1037-1101A.D. 蘇軾(北宋)、の巻
蘇軾に関係する人
1045-1105A.D. 黄庭堅(北宋)
蘇軾の愛弟子であり、理解者。
「宋の四大書家」のひとり。
米芾(掲載予定)
「宋の四大書家」のひとり。
蘇軾の最期を看取ったと言われる。
趙孟頫(掲載予定)
蘇軾ー北宋の流転のエリート官僚
「黄州寒食詩巻」~最初の流刑で花開いた奇跡

「自我来黄州已」まで

蘇軾(そしょく)は、若くして科挙に合格し官僚となったエリートでしたが、政争に巻き込まれて左遷され、流転の人生を送った人です。
書画や詩、文章全てに天才的な才能を持っていた人だったので、妬まれたのかなぁ…と思わないでもない。
当時の朝廷は政治のイデオロギー闘争(新法党 vs 旧法党)の真っ只中でした。
実務派で民の暮らしを重んじた蘇軾は、急進的な改革を進める新法党の政策を批判したため、激しい弾圧を受けます。
1079年、蘇軾43歳の時。
文章、詩、書、画のすべてに天才的な才能を発揮していた蘇軾ですが、彼が書いた詩が「朝廷を誹謗中傷している」と言いがかりをつけられ、逮捕。
数ヶ月に及ぶ過酷な取り調べを受け、一時は死刑すら覚悟しました。
「烏台詩案(うだいしあん)の悲劇」と呼ばれます。
翌1080年。 なんとか死刑は免れたものの、不毛の地であった黄州(現在の湖北省黄岡市)へ左遷・・・事実上の流刑となります。
そんな不遇の天才が、この流刑地で感情を迸らせて書いたのがこの行書。
1082年のことです。
私がこの黄州にやって来てから、すでに3回目の寒食節が過ぎ去った。
毎年、春を名残惜しみたいと思うのに、春は惜しむ間もなく去ってしまう。
今年はまたひどい長雨に祟られ、この2ヶ月間は、(春だというのに)まるで寂しい秋のようだ。
横になりながら、海棠の花が激しい雨に打たれ、あの紅色の雪のような美しい花びらが、泥に汚れていくのをじっと聞いている。
(時間は)暗闇に紛れて、誰も気づかぬうちに春を背負って逃げ去ってしまう。夜中に連れ去る者(時間の神)は、本当に力強いものだ。
これではまるで病気がちの若者が、朝起きて鏡を見たら、すでに髪が真っ白になっていたという話と、何の違いがあるだろうか(それほど私も急激に老い衰えてしまった)。
今回はこのうち、「私がこの黄州にやって来てから」の部分を書いています。
筆の角度を見ていただければわかりますが、かなり側筆(筆を傾けて書くこと)に書くので、線が太かったり、線を震わせることが可能になります。
私はよく師匠に「線の種類が足りない(さらっと書きすぎる)」と指摘されるので、こういう線は本当に勉強になります。
ところで黄庭堅は、この蘇軾をめちゃめちゃ尊敬していて、一緒に政争に巻き込まれています。
蘇軾と黄庭堅の年齢差は8歳。ちょうどtimeleszの寺西くんと篠塚くんの年齢差なんですよねぇ…(そんな年齢差と関係性にも萌えるw
「致夢得秘校札」~二度目の流刑から帰京する途中の手紙

「軾将渡海宿澄」まで

「邁承 令子見」まで

蘇軾はとても有能な官僚で、宰相になれるのではないか?とまで言われた人でしたが、政争に巻き込まれて左遷され、辛酸を舐めた人です。
一度は流刑にあいますが、有能だったからでしょう。
1086年、まだ幼かった北宋の第7代皇帝・哲宗が即位すると、都に呼び戻され、復権します。
まだ9歳だった哲宗には、おばあちゃまである高太后が後見人として立ち、この皇太后が、旧法派である蘇軾や黄庭堅など有能だった官僚を一斉に呼び戻したのです。
しかし、いい時っていうのは長くは続きません。
おばあちゃまですからね…1093年、高太后は亡くなりました。
そしてその時には、哲宗が16歳になっているわけです。
16歳になった哲宗は、
「これからは自分の政治をやる! 父上がなさっていたように、新法改革するぞ!」
と宣言し、蘇軾たち旧法派の官僚を「おばあちゃまの味方をして政治を乱した奴ら」として、再び流刑に処します。
この時蘇軾58歳。
当時の寿命を考えれば、絶望的な気持ちになったことは、想像に難くありません。
臨書した手紙は、この2度目の流刑から許されて、都に帰る直前のもの…つまり最晩年のものだそうです。
え、これ最晩年なの?
その割に、墨がたっぷりつかわれて線も若々しく充実しており、苦渋を舐めた人のものとは思えないくらい溌剌としている…
蘇軾すごいなぁ、精神的な強さが違う。
もっとも、こういうふうに弱みを見せないプライドの高さや打たれ強さが、逆に鼻についた可能性もありますよね。
人間て本当に難しい…
臨書した部分は、
「私、蘇軾は海を渡るにあたって澄邁に泊まっております。あなたのご子息が訪ねてきてくださったと聞き及びました」
と書いてあり、手紙全体は、親しい友人である「夢得秘校(=趙夢得)」に宛てた、旅の途中の伝言メモのような内容になっています。

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