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家族旅行――壊れかけの家族の、最後の儀式 🔥1

うちの家族は、普段はまったく仲良くなかった。

でも、年に一度の家族旅行だけは違った。

私たちにとって、それは“壊れきる前の儀式”だった。


幸せだったから行っていたんじゃない。
私たちは、壊れきる前に形だけでも「家族」に
戻ろうとしていたのかもしれない。

普段の家の中。
父は眉間にしわを寄せ、いつも不機嫌そうに
過ごしていた。

「頭が痛い」
それが、母の口癖だった。

父母はほとんど口をきかず、
母は機嫌の悪い父を避けているようだった。


しかし、なぜか一年に一度旅行に行っていた。

行き先はいつも九州。
父が全行程を決め、車で出かけるのが決まりだった。
何度行ったのかは覚えていないが、
おそらく、私が小学生の時。

その数年間の間だけだったのだろう。


両親が前に座り、私たちは後部座席。
そこには布団や毛布が積まれていた。
眠くなったらそこに潜り込み、揺れる車の窓から流れる景色を眺める。

「わぁ、れいちゃん見てー!星きれい」
「すごいねぇ」

目的地を巡って両親が言い争い、
父が不機嫌になる場面も多かった。

その時は後ろで眠ったフリをした。
この時間だけは、私だけが怒られることは
なかったように思う。

────

いつだったか、どこかに向かっている途中の事だった。

「くそっ、オーバーヒートか」
私が見ると、ボンネットから煙が上がっていた。

父は思い通りにならない車に
苛立っているようだった。
無言でボンネットを乱暴に閉めたり、
「ボロ車が」と、車に悪態をついたりしていた。

お父さん、怒ってる。

そう思って車内で様子を伺っていた。
道に迷ってはイライラし、
車が不調で不機嫌になる。
いつもの事だった。

しばらくして、父が言った。
「時間がかかりそうだから、これでも食べとけ」

そう言って、近くのお店で
天むすを買ってもらった。

父が車に水を入れたり、修理している横で、
私たちは天むすを頬張った。

プリプリのえびと甘辛いタレ、
頬が落ちるほど美味しかった。
それ以来、天むすは私の大好物になった。

移動中は、後部座席で妹たちと、
“倒れたらダメゲーム”をした。

3人で車のシートに正座をする。
手は膝の上。
揺れる車内で、体が倒れたら負け。

それは、長い移動時間があっという間になる
魔法のようなゲームだった。

「倒れたら負けよ」
「危ない、今のカーブ危なかった」

「きゃあー」

後ろで騒いでも、この時だけは
両親は何も言わなかった。

────

そして旅行の帰り道、
必ず立ち寄るステーキ屋さん。

年に一回だけの高級ステーキは、
我が家にとって最大の贅沢だった。

「れいちゃん、ステーキもういらないの?
食べてあげようか?」
「みのり、あんたいい加減にしなさい」

私は自分の分を平らげ、食の細い妹の分まで食べようとして母にたしなめられた。

────

私は、子どもの頃から今日まで、
「何もかもが不幸だった」わけではない。

親戚の家で過ごした時間、
みんなで海で遊んだ夏の日、
旅行で食べたステーキや天むすの味——。

それは、がんじがらめだった私の毎日に
ほんの少しの水を注いでくれた。

けれど、私の心が潤うには足りなかった。

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🫧この形の私

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