かけられなかった"助けて”
家は、嫌いだった。
日曜日の夕食時、テレビに映った場所を見て、
私は本気で逃げられると思った。
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父が私を見る時は、いつも眉間に皺を寄せていた。
母は、私にだけ小言を言う。
家族に見捨てられたくない。
けれど、親の言う“いい子”になれない。
学校でも、家でも居場所はなく、
ただ毎日は苦しかった。
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そんなある日の日曜日。
夕食を食べている時、私はテレビから流れてきた映像に釘付けになった。
ドキュメンタリー番組だった。
父はこういう番組が好きだった。
私は白飯をかき込むふりをして、耳をすました。
「ここ、〇〇寺では、このような子どもが社会で生きていくための……」
アナウンサーの声とともに、
『虐待されている子ども』が映っていた。
親元で暮らせない子どもたちが、
一時的に身を寄せる場所。
「事情があり、親元で暮らせない子どもたち。
虐待を受けた子どもが暮らしています」
画面の中で、私と同じくらいの子どもが、
ご飯を食べていた。
「ここに来れて、良かった。
いつか、お母さんのところに帰りたいけど」
「殴られるのは、怖い」
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息が止まった。
ここに行けば、家から離れられるの?
この人に話したら、助けてもらえるの?
テレビに映った連絡先。
頭の中で何度も繰り返す。
0、7、8……
忘れちゃダメ。
食事が終わるとすぐ、広告の裏に書き留めた。
これで、逃げられる。
私はそれを見えないように折り、
机の引き出しの奥に隠した。
親がいない時に、電話しないと。
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それから一週間後。
学校が終わってすぐ、私は家の電話の前にいた。
親はいない。今ならかけられる。
心臓がドクドクと鳴っていた。手先が冷たい。
受話器を取る。
0、7……
プルルル
プルルル
呼出音が鳴る。
その時。
頭の中に再生されるあの時のテレビの声。
「事情があり、親元で暮らせない子どもたち。
虐待を受けた子どもが暮らしています」
私は、殴られている?
虐待、されている?
ご飯もある。学校にも行ける。
親から「出ていけ」とも言われていない。
目を見開く。
お寺の人の声。
「まずはご両親とよく話してね」
「家がいちばんなんだから」
「お父さんも、お母さんもいい人たちだよ」
親に連絡される。
「なんてことをしたんだ」
「こんなことするなんて、恥ずかしい」
怒った父や母の顔が浮かぶ。
背筋が寒くなった。
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ガシャン!
受話器を乱暴に置いた。
呼吸が荒い。
心臓はドクドクと倍以上の速さで脈打つ。
言えない。
助けてなんて。
言っちゃ、いけない。
私は、助けてもらえるほど不幸じゃない。
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私は紙を握りつぶした。
そして破いた。
ビリ、ビリ、ビリ。
私は、黙って、紙を小さくしていった。
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机の上に、破れた紙が散らばる。
私はしばらく、それを見ていた。
手でかき集める。
ビニール袋に入れて、口を縛った。
見えないように、ゴミ箱の奥に押し込んだ。
もっと、もっと奥に。
ゴミ箱の蓋を閉めると、
くるっと方向を変えてこたつに座り込んだ。
こたつの上には、もう何もなかった
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🫧この形の私

