シチュー
クリスマスイブ。
一年に一度だけの、特別な日だった。
その夜にはサンタさんが来る。
そして、普段は決して出てこないケーキが、食卓に並ぶ日だった。
誕生日にすら登場しない、丸いちゃんとしたケーキ。
ショートケーキではなく、ホールのケーキ。
それだけで、この日は少し違う日になる。
ほうれん草のおひたし、ご飯。
イカの煮物。
いつものメニュー。
そして、もうひとつだけ特別なものがあった。
シチューだった。
⸻
母のシチューには、じゃがいもも人参も入っていなかった。
玉ねぎと白菜と鶏肉だけの、シンプルなシチュー。
白菜がたっぷり入っていて、煮込まれたのにシャキシャキしている。
それが好きだった。
いつも少し甘めの母の味とは違って、
そのシチューだけは、ほんの少し塩気が強かった。
白菜は甘くないのに、玉ねぎは少し甘い。
その違いが、同じ鍋の中でそのまま混ざっているのが好きだった。
⸻
こたつのぬくもりが足元にあって、
シチューの温かさが体に入っていって、
横には白いケーキがある。
今日は特別な日。
クリスマスって、すごい。
そんなふうに思っていた。
⸻
私は、ほかのおかずにはあまり手をつけなかった。
ただシチューだけを、何度もおかわりした。
なくなるまで、食べたかった。
⸻
「お母さんのシチューって、世界一だよね」
「ほっぺた落ちそう!」
「もう落ちてるー!」
妹たちと三人で、ふざけながら笑っていた。
母に「もうそれくらいにしなさい」と言われるまで、
今年もシチューをおかわりし続けた。
──────────
🫧この形の私

