忘れられたハンバーグ 🔥3
夏休み。
大好きな伯母の手作りハンバーグ――
でも、私は数日後、それを見て凍りついた。
小さなお皿にそっと隠したあのハンバーグが、
悪夢に変わるとは思わなかった。
────
小学校5年生の時だった。
親戚が我が家に遊びに来た。
伯母はいつも大人の手際で料理をたくさん作り、
みんなに振る舞ってくれた。
外は真夏の匂いがして、私たちは海で泳ぎ、
浜辺でバーベキューをした。
父は親戚が来ると決まって張り切り、
母に山のようなおにぎりを作らせ、
砂浜の上で肉を焼き続けていた。
それは我が家の、夏の恒例行事だった。
わいわい賑やかで、私はその雰囲気が大好きだった。
その年、伯母はミンチが食べられないのに、
わざわざ包丁で肉を叩き、
荒びきのハンバーグを作ってくれた。
「これは置いておくから、みんなで食べてね」
そう言って、タッパーいっぱいのハンバーグを残して帰っていった。
親戚が帰った後、家は静かになり、
少し寂しくなった。
でも、私の心には一つだけ楽しみが残っていた。
――大好きな手作りハンバーグ。
誰にも食べられたくない。
そう思った私は、小さなお皿に
ハンバーグを二つ乗せ、ラップをかけて、
2階の誰も使っていない部屋の引き出しの奥に
そっと隠した。
「あとでゆっくり食べよう」
それだけを楽しみにしていた。
しかし、私はそのまま完全に忘れてしまった。
────
数日後、家族がこんなことを言い出した。
「なんか、あの部屋の前を通ると臭くない?」
私は、自分が隠したあのハンバーグのことなど、
すっかり忘れていた。
何のことか分からず首をかしげた。
「さぁ、わかんない」
でも、指摘された部屋の前を通った瞬間、
私の頭の奥で何かが弾けた。
あ。
――ハンバーグだ。
引き出しを開けた瞬間、
声にならない悲鳴が喉に詰まった。
お皿の上にはハンバーグがふたつ。
その上には無数の虫。
原形を保っているのかすらわからないほど崩れ、
息が止まりそうな悪臭が立ち上った。
私はどうしたらいいか分からなかった。
今日は日曜日。
父も母も妹たちも1階にいる。
こんなものを持って階段を降りるのは不可能だった。
心臓が苦しいほど脈打つ中で、私は必死に考えた。
考えて、考えて、考え抜いた。
――もう、捨てるしかない。
私は虫が手につかないよう、震える指でお皿の端をつまむと、ベランダに走り出した。
窓を勢いよく開け、周りに誰もいないことを確認し、フリスビーのように皿を放った。
ガシャン――。
甲高い音が道路に響いた。
ハンバーグと皿の破片は草むらに散らばった。
私は完全に想定していなかった。
“音がする”ということを。
父と母が「今の音なに!?」と騒ぎ始めた。
その時、2階にいたのは私だけだった。
やばい。
無意味にコソコソと走り回ったけれど、
その時のわたしにできることは、何も無かった。
すぐに呼び出された。
問い詰められ、私は震えながらすべてを白状した。
父の怒りは嵐のようだった。
「もし人に当たったらどうするんだ!」
「道路の車に当たったら事故になるって想像できなかったのか!」
父の手にあった丸めた新聞紙が、
何度も何度も私の体を叩いた。
母は呆れたようにため息をついていた。
この後のことは、あまり覚えていない。
ただ、新聞で殴られる痛さと、
丸めた新聞の大きな音だけが、はっきりと残った。
──────────
🫧この形の私

