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壊れた車とアザラシと、ゼロの貯金 🔥4

私の車が壊れた。

中古で買ったお気に入りの車だ。

購入してから何度も修理を繰り返し、
一人暮らしのときに必死で貯めたお金は
その車の修理費に全て消えた。

私の貯金はゼロになった。

金食い虫の車だった。

けれど、私がその車に乗り続けたのには、
私なりの”理由“があった。

ダッシュボードのアザラシの置物。

元々買った時から付いていた、そのアザラシが
かわいくて仕方なかった。
運転する時に、助手席側についた小さなアザラシを見つめるだけで、幸せな気持ちになった。

多分、芳香剤かなにかの残りだろう。
そのアザラシは、車にくっついていて、
どんなに引っ張っても取れなかった。

「こだわりポイントが違うよね」

周りの人からは笑われた。
けれど、私はそのアザラシと一緒にいたくて、
修理しては乗り続けていた。

しかし、ついに車は動かなくなった。

新車を買う余裕はもちろんない。
いや、何を言ってるんだ、中古で充分だ。
そう思い直した。

給与明細と、通帳を片手に、
私は何度も電卓をはじいた。

なんとか、方法はないか。
なんとか。

しかし、どんなに電卓をはじいても、
私の納得できる数字は、叩き出せなかった。

両目を手で覆い、息を吐き出す。

無理か。


けれど、車がないという生活は、
考えられなかった。

私は、意を決して父のところに向かった。
不本意だった。

けれど、きちんと頭を下げれば、
わかってもらえるはずだ。
お父さんなんだから。


父は、自室のソファーに腰掛けて、
テレビを見ていた。

「お父さん。」
父の後ろ姿に声をかけた。
心臓がバクバクする。

父は、チラッとこっちを見たが、
私の姿を見ると
何も言わず、テレビに視線を戻した。

私は、部屋の入口の床に正座して口を開いた。

「私の車が壊れました。
今のままだとローンが払えません。
ローンが終わるまでの間だけ、
家に入れるお金を1万円免除してもらえませんか」

できるだけ丁寧に言って、
額が床につきそうになるほど頭を下げた。

父が何も言わないので顔を上げると、
いつもの鋭い目で、私を見下ろしていた。

「車の費用は全部出してやる。
ただし、中古の安い車はこちらで探す。
家に入れるお金と車のお金を毎月返せ。
それが条件だ」

言葉が出なかった。

家に入れるお金と車のローン。
相談ではなく条件として提示されたその額は、
手取り10万円のうち3万7千円だった。

食費は含まれていなかった。
食べてはいけないわけではない。
ただ、私の分の食事が用意されることはなかった。

そして、毎日の父の食事は私が用意していた。

重かった。

けれど、了承する以外道はないように思えた。

─────

私は、壊れた車からアザラシを取ろうと試みた。

どうしても、手元に置いておきたかった。

けれど、そのアザラシは、やはり、
がっちり付いていて取れなかった。

父の知り合いが提示してきた3台の中古車。

その中から動けばいいという理由だけで
一番マシそうな車を選んだ。

色も形も気に入らなかった。

外見も内装も、乗っていても
何の愛着も湧かなかった。

その後も結婚までの3年半、
気に入らない車に乗りながら父にお金を払い続けた。

アザラシのいない、気に入らない車の中で
私は死んだような目で日々を過ごした。

─────

車の維持費、食費、携帯代。

家を出る余裕も、車を選ぶ自由もない。

父の夕食代を入れてくれるはずの缶の中は、
相変わらず空のままだった。

なにもかもにうんざりした。

家に帰るくらいなら、
彼氏である基くんと一緒に
菓子パンを食べてるほうがずっと幸せだった。

100円で笑ってご飯を食べられる。
その時間が何より大切だった。


私は自然と
基くんと過ごす時間を増やすようになった。

家に帰れば、自由も力も心も、
何もかも奪われるだけだった。

──────────
🫧この形の私

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