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メロンパンデー

私が入社して3年が経った頃、
会社の場所が移転になった。

少し大きなビルに事務所を移したのだ。

移転したビルは、以前よりもきれいだった。

清潔なトイレも嬉しかったし、
一階のロビーがホテルみたいなのも幸せだった。


でも、私が一番嬉しかったのは、それではない。


メロンパン。


私が働いていた会社の隣は、パン屋だった。

そこはメロンパンの専門店だった。
他のパンも少しあったが、
ほぼメロンパンだけの店だった。

ビルを出ると、いつもメロンパンの甘い香りが
私を包む。

─────

それまでの私のお昼ご飯は、
自分で作ったお弁当だった。

でも、このビルに移転してから、
少しだけ変化があった。

仕事を始めて少し年数が経ち、
生活にわずかな余裕が出てきたこともあった。


私は、メロンパンを食べてもいい日、として、
"メロンパンデー”を自分の中で制定した。

火曜日。
そして、木曜日。

その日だけは、
メロンパンを二個買っていい日。

家から持参したお茶と、メロンパン二個。

それは、私の楽しみになった。

─────

そのパン屋には、いつも長蛇の列ができていた。
みんなメロンパンを買っていく。

コックさんのような格好をしたおじさんが、
いつも笑顔で手をたたきながら、
「メロンパンですよ。焼きたてですよ。
おいしいですよ」
と威勢よく客引きをしていた。

その日もメロンパンは
白い紙袋に入れられていた。

袋越しに、やさしい温かさ。

私はそれを両手に抱え、
ウキウキしながら会社に戻る。

スキップしそうだった。

─────

事務所に戻り、いつもの席に座る。

ひと口かじる。

表面はザクザク。
香ばしい。

中はふわん、ふわんと柔らかい。

私は目を閉じ、上を向く。
やっぱり、その辺のメロンパンとは格が違う。

「ん~!美味しいっ」

ひと口かじる度に感動した。

私は完全に、そのメロンパンの虜だった。

モチノさんは、そんな私を見て苦笑いした。
「よう飽きへんなぁ。
メロンパン2個とか信じられへん。
口ん中、甘いままやん」

そんなのは、全く構わなかった。

口の中をメロンパン味にして
1日過ごしたいくらいだった。

ある日、ヤマダさんがお昼休みになってすぐ
私のところに来た。

「みのりさんがめっちゃ美味しそうに食べるから、
私も食べたくなってん。
今日メロンパンデーやろ。一緒に行こ。」

そして、二人でサクサクのメロンパンを
頬張った。

やがて、モチノさんも
「私も今日メロンパンにするわ」
と、3人でメロンパンを食べることもあった。

それから1年ほどして、私は退職した。
その間、私はメロンパンデーにメロンパンを
食べ続けた。

私が退職する時も、
そのメロンパン屋は大繁盛していた。

帰りにひとつメロンパンを買った。

手に残る温かさを感じながら
いつも通ったお店を振り返った。

「ありがとうございました」と、
心の中で敬礼をし、その場所を後にした。

─────

それから何年かして、
私はあのメロンパン屋に立ち寄ったことがある。

かつてメロンパン屋だった場所には、
別の店が入っていた。

私は、
しばらくの間、
変わってしまった建物を見つめていた。


おそらく、もう二度と食べられない。
あの、メロンパン。

ほんのりとした、あの、あたたかさ。

今でも、食べるたびに
思い出す。

──────────
🫧この形の私

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