見出し画像

安心したはずなのに、揺れた日 🔥2

私は、元気を少しずつ取り戻していた。

モチノさんは相変わらず圧が強かった。
けれど、以前ほど深刻には感じなくなった。

気づけば、日々は過ぎていた。

「気持ちって、変わるんだな」
あれだけ、もう無理と思ったのに。

私はまだここにいる。

青空に向かってひとつ、息を吐き出した。

────

親に電話しないと。

私は泣きながら仕事を辞めたいと訴えた。
お父さんとお母さんに心配をかけてしまった。

電話、しないと。

────

「もしもし?」

「お父さん、連絡遅くなってごめん。
色々心配かけてごめん。
仕事を辞めたいと言ったけど、
もう少し頑張ってみようと思う」

その言葉に、父は答えた。
「お前が決めたなら、そうすればいい。
帰りたくなったら、帰ってきたらいい。
あんまり頑張りすぎるなよ」

父の言葉を聞き、心が少し軽くなった。
「母さんにも話してやって」

父は前と同じように受話器を置いた。

ことん、と音がして母の声が聞こえた。
「もしもし?みのり?あんた大丈夫なの?」

母にも父と同じ内容を話した。

「心配かけてごめんね。もう少し頑張ってみる」

次の瞬間だった。

「……ああ!よかった!
あなたが辞めると言った時、お母さんどうしようかと思った。
根性なしになるところだったね。
間違った道に行かなくて本当に良かった!」

母の嬉しそうな声。

それは、聞き覚えるあるフレーズだった。


「間違った道」って何?


今の私は、たまたま辞めていないだけだった。

英雄のように前を向いているわけでも、
なにかを決意したわけでもなかった。

ただ流れに沿って、手を動かしているだけ。

なにかに押されるように、
仕事を続けているだけだった。

────

いつか私は、
母の言う『間違った道』や『根性なし』になるかもしれない。

そう思うと身震いがした。

「じゃあ、またね」

電話を切ると、ぱたん、と手がベッド上に落ちた。

そのまま携帯を持つ手を離す。

両手を組むと、私は下を向き
ふぅーっと息を吐いた。

言葉は何も浮かんでこなかった。

安心できる言葉を聞いたはずだった。

それなのに、安心から少し遠のいたような気がしていた。

──────────
🫧この形の私


あなたの心に、なにか残ると嬉しいです。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

▶  次の出来事へ(それからの日々)

←  この章の目次【社会の洗礼】
←  この物語全体を読む【シリーズ一覧】

いいなと思ったら応援しよう!