【スピンオフ】当たり前 🔥4
🗝【私の章】

私は、長女だった。
家に対する愛着など、
「まったくない」と言ってもよかった。
親に感謝する、大事にする。
そういうものだという知識はあった。
しかし、それは義務として
理解していただけだった。
特に父に対して「大事にしたい」と
感じたことは一度もなかった。
家というものは、
私を傷つけることはあっても、
守ってくれる場所ではなかった。
誰かに復讐してやりたいとか、
強く攻撃したいとか、
そういう感情を抱えていたわけではない。
ただ、この家の人のために何かをしたいとか、
そういう気持ちは全く湧いてこなかった。
例外があるとすれば、母だった。
母を守りたいという気持ちだけは、確かにあった。
それだけが、私をこの家につなぎとめていた。
結婚の話が出たとき、父も母も、
特に何も言わなかった。
「そうなんだ」
という程度だった。
私に何かを託すような言葉もなかった。
ただ、そういう事実が起きた、
という受け止め方をしているように見えた。
─────
けれど、義祖母だけは違った。
「長女なんだから、家を継がないと」
「ちゃんと、お婿さんに来てくれるんでしょうね」
もう相手の親とは挨拶を済ませていた。
私は軽く笑って言った。
「今どき、そんなことあるわけないでしょ」
私が笑うと義祖母は言った。
「あなたは長女なんだから。
婿をとるのは、当たり前だろう。」
基くんのお父さんは、
「結婚したら、女は家に入るものだ」
そういう考え方を、疑いなく持っている人だった。
もし、基くんを婿に、などと言おうものなら、
結婚の話そのものがひっくり返ってしまう。
それだけは、許さない。
この結婚を、誰かに邪魔される覚えはなかった。
邪魔させるつもりもなかった。
私は早口でまくし立てた。
「おばあちゃんは、私の結婚を壊したいの?
おばあちゃんが言ってることは、
そういうことだよ」
義祖母は、何か言いたげだったが、
それ以上何も言わなかった。
それでも折に触れて
「長女なのに、家を継がないなんて」
と、ぶつぶつこぼし続けた。
なんで私が。
なんで、私が苦しめられたこの家を。
私の心の中に、蛇のような感情が満ちていく。
そんなある日、父が部屋にやってきた。
「おばあちゃんは、ああいう考え方の人だから。
聞くだけ聞いとけばいい。
お前は、継がなくていいからな」
父からそんな言葉が出るとは思っていなかった。
これまで反対もせず、賛成もせず、
家のことについて何かを語ることもなかった
父の口から、
「継がなくていい」という言葉が出た。
私は黙って父を見た。
父は続けた。
「父さんな。
高校を出て就職したときから、
家を継ぐのが決まってたんだ」
「選択肢なんてなかった。
家を継いで、嫁をもらう。
それが当たり前だと言われた。
正直、それはずっと嫌だった」
「だから、お前は好きに生きろ」
そう言って、部屋を出ていった。
─────
酒を飲み、人に当たり、
いつも噛み合わない存在だった父。
父が、家のことをそんなふうに感じていたなんて、
私は知らなかった。
でも、それを聞いたからといって、
父に感謝の気持ちが湧いたわけではなかった。
長い時間をかけて積み重なったものは、
たった一言で帳消しになるようなものではなかった。
当たり前だ、と思った。
それ以上でも、それ以下でもなかった。
──────────
🗝この形の私

