たんすを置かせて 🔥3
結婚式が終わって、しばらくした頃だった。
誰にも怒られない。
誰かの機嫌に左右されない。
横になれる。
私は穏やかな生活を満喫しているはずだった。
ただ一つを除いては。
ほとんど毎日、
義妹が家に来るようになっていた。
そして、そのまま何も言わず泊まっていく。
休みの日は、前夜から我が家にいる。
気がつくと、そういう構図になっていた。
ふたりの時間がいいな。
内心そう思った。
「仲良くしたいって言ってくれているんだから、
喜ばなきゃ」
私は、違和感を飲み込んだ。
─────
何もしない一人の時間。
ベッドに横になり、ほうっと息を吐く。
天井の模様をぼんやり眺めた。
何もしなくていい。
頭を少し傾けると、
窓から網戸越しに、爽やかな風が入ってくる。
私は目を閉じて、その風を胸いっぱいに
吸い込んだ。
外からは、かすかに鳥の声がする。
私には関係ない、外の世界の音。
雲の端が、太陽の光を受けて眩しく光る。
その光が、ゆっくり横に流れていくのを
眺めた。
私はゆっくり目を閉じた。
そのまま、静かな時が続くはずだった。
その、微睡みを切り裂くように携帯が鳴った。
義祖母の名前だ。
何だろう。
私は体を起こして電話を取った。
「もしもし」
「今日は休みかい」
「うん、休みで家にいるよ」
すると、義祖母は言った。
「ちょっとお願いがあってね」
今まで住んでいた家を引き払って、
新しいアパートに移るつもりだという。
それは聞いていた。
すると、義祖母は続けた。
「今度のアパート、前より狭くてね」
「お姉さんの荷物もあるし、全部入らないんだよ」
何の話だろう。
義祖母はさらに続けた。
「お前の実家にも置いてるんだけど、
タンスが入り切らないんだよ」
「着物とか色々あってね」
そして、何のためらいもなく言った。
「お前の今住んでる家に、
タンスを3つくらい置かせてほしいんだけど」
意味が、すぐには理解できなかった。
こめかみに、自然と手がいった。
頭が追いつかない。
数秒、言葉が出なかった。
ドクン、ドクン
心臓が激しく脈打ち、手が震える。
なにを、言ってるの、この人は。
私は、衝動を必死で押し殺し
できるだけ静かに言った。
「私は、この家に嫁いできてる嫁なんだよ」
「今住んでる家は、夫のお父さんの家なの」
「悪いけど、タンスは引き取れない」
声が少し震えた。
怒りで、喉が詰まりそうだった。
義祖母は、少し残念そうに言った。
「そうかい。ちょっと置かせてもらうだけでいいと思ったんだけどね」
それでも、一応「わかった」と言って、電話は切れた。
─────
電話を切ったあとも、怒りは消えなかった。
私は父にこの話をした。
正直に言えば、父の差し金ではないかと、
少し疑っていた。
「おばあちゃんから、こんな電話があって」
できるだけ淡々と話した。
父は、焼酎の入ったグラスを止めて、私を見た。
「は?なんだそれ」
「バカじゃないか」
「そんなの無理に決まってるだろ」
「何言ってるんだ、ばあちゃんは。
聞かなくていいそんな話」
父は鋭い目でそう言うと、
また焼酎を飲み始めた。
私は、自分の周囲に、
微妙なずれを感じ始めていた。
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🫧この形の私

