壊れるベッド、何も言わなかった夜 🔥1
ベッドが壊れた夜、私は誰も呼ばなかった。
怖いとも、助けてとも、思わなかった。
それが普通だった。
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中学になった頃、私にはひとつの望みがあった。
自分の部屋が欲しい。
片付けはできない。
勉強も嫌い。
それでも、ひとりの空間を持つことは
大人に近づくことのように思えた。
ひとりで寝る。
ひとりで過ごす。
その場所が欲しかった。
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我が家は古い一軒家だった。
二階には小さな部屋がいくつもある。
その中に、三畳ほどの景色のいい空き部屋があった。
私はどうしても、その部屋が欲しかった。
小学六年生の頃から何度も頼み続け、
中学に上がる直前、ようやく父の許しが出た。
「やったぁ。
お父さん、ありがとうございます」
私はその場でくるくる回った。
やっと願いが叶った。
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ちょうどその頃、父は突然こう言った。
「子ども部屋にベッドを作る」
父は日曜大工が好きで、木材を買って
棚を作ったり床を直したりすることがあった。
けれど、子どものために
何か大きなことをする人ではなかった。
だから正直、
私はあまり心が動かなかった。
「あ、私のもあるのか」
それくらいだった。
三畳の部屋にベッドを置けば、
部屋はさらに狭くなる。
私は考えて、押し入れの襖を外した。
中に入っていた布団や荷物を移動させた。
そして父にお願いした。
「押し入れに収まる高さのベッドを
作ってほしい」
父は本当に作り始めた。
丸い木を組み合わせた、
少しお姫様のような形のベッド。
無垢材の上にベニヤ板を敷いた手作りのものだった。
ときどき「持て」「押さえろ」と手伝わされ、
思い通りに動かないと父はすぐ怒った。
妹たちには二段ベッドが作られた。
「すごいなぁ」
それが、私の正直な感想だった。
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完成して二年ほど経った、ある夜。
私はぐっすり眠っていた。
バキッ
突然、大きな音がした。
その瞬間、体が下へ落ちた。
一瞬、体が宙に浮いたような感覚。
ジェットコースターが落ちるときのように、
内臓が引っ張られた。
「……?」
目を開けると、
ベッドの柵がいつもより高いところにある。
少しして理解した。
ベッドの底が抜けた。
「びっくりした……」
それだけ言って、私はそのまま眠った。
誰かを起こそうとは思わなかった。
そういう発想自体、私にはなかった。
翌日、歪んだ枠を戻し、
ベニヤ板をはめた。
元の形に戻った。
誰にも言わなかった。
その後も、何度か底は抜けた。
そのたびに私は黙って直した。
やがて中学三年になる頃には、
抜けない場所を探して眠れるようになっていた。
油断すると、また落ちる。
それでも私は、そのベッドを
高校を卒業するまで使い続けた。
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一度家を出たあと、戻ってきたときも、
壊れているのはわかっていたけれど、
またそのベッドで眠った。
結婚が決まり、父に言われた。
「出ていくなら、部屋の物は全部片付けろ」
ベッドはそのままにして家を出た。
一ヶ月後、荷物を取りに戻ったとき、
部屋には何も残っていなかった。
ベッドも、全部。
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父はずっと、
私にとって恐怖と怒りの象徴だった。
もし違う育てられ方をしていたら、
違う関係になれていたのだろうか。
そんなことも思う。
父が私たちを愛していたのかどうかは、
今でもよくわからない。
ただ、子どものために
何かをしようとする気持ちが、
まったくなかったわけではないのだろう。
それでも私にとって父は、
ずっと 圧迫の存在だった。
そして私は、
壊れても落ちない場所を探して眠ることだけは、
いつの間にか上手くなっていた。
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🫧この形の私

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この出来事を、別の視点で読む
▷ なぜ私は壊れたベッドを使い続けたのか(考察)
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▶ ︎ 次の出来事へ(コンプレックスを笑われた日)
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