布団のスマキと、動かなくていい夜
仕事が終わると、私はいつものように車に乗り、同じ場所へ向かった。
そこには、1人の男性。
基くんだ。
私たちは、途中の駐車場で待ち合わせる。
いつもの流れだった。
「夕ご飯どうする?」
当然のように、2人でスーパーへ。
適当に惣菜を買う。
あとは、基くんの好きなコッペパン。
チョコパイ。
「はい、砂糖ー!」
「これがないと始まらないからね」
ほとんどお菓子だ。
どうでもいい話をしながら基くんの家へ向かう。
それが、いつもの流れだった。
家に着くと、
私は服も着替えないまま、
そのまま、布団へ潜り込む。
「疲れたー」
「眠くなってきた」
「お布団、好きー」
そう言いながら、
布団にくるまって動かなくなる。
基くんは呆れた顔をしながら、笑う。
「お前、働けよ」
「えーあと5分ー」
私はそのまま、
布団の中へさらに潜っていく。
すると基くんは、
布団ごと私をぐるぐる巻きにした。
「うわーーー」
「出荷されるーーー」
私は叫びながら布団に巻かれていく。
髪の毛をぐしゃぐしゃにされ、
さらに布団でスマキにされる。
私はそのまま、
亀みたいに布団へ潜り込んで、
「もう逃げる……」
と言いながら動かなくなる。
すると今度は、
基くんは、その上にドーンと倒れ込んでくる。
「重い!!」
「潰れる!!」
そんなことを言いながら、
2人でゲラゲラ笑っていた。
それは、
特別な日ではなかった。
いつもの夜だった。
レンジが回る音。
コンビニの惣菜の匂い。
ぐちゃぐちゃの布団。
疲れた体。
その中で私は、
ただ転がっていた。
────
私は昔から、
すぐ落ち込む人間だった。
何かあるたびに、
「どうしよう」
「私が悪かったかもしれない」
と考え込む。
基くんの前でも、
平気で落ち込んでいた。
でも彼は、
「大丈夫?」と深刻にはならなかった。
私が悩みを話すと、
なぜか大笑いする。
馬鹿にしている感じではない。
ただ、
「お前、それ面白いな」
みたいに笑う。
私は最初、
「なんで笑うの」と思っていた。
でも、
つられて笑ってしまうのだ。
笑っているうちに、
「あれ、私、何をそんなに悩んでたんだっけ」
となる。
そんなことが何度もあった。
────
基くんの前にいる私は、かなり無防備だった。
眠い時は寝る。
疲れたら転がる。
落ち込んだら落ち込む。
泣きたければ、泣く。
何かを頑張って、
好かれようとしていた感じが薄かった。
それまで付き合ってきた人も、
優しい人ばかりだった。
でも、基くんは少し違った。
優しすぎなかった。
少し雑で、
少し笑って、
少し放っておく。
でも、
その空気が妙に心地よかった。
私は彼の前にいる時だけ、
何かを証明しなくてもいい気がしていた。
肩の力を抜いて、
ただ疲れたまま転がっていても、
大丈夫な時間だった。
動かなくてもいい。
役に立たなくてもいい。
布団に潜っていても、
そこにいてよかった。
それは、
私の人生の中でも数少ない、
「私のままでいていい」と思えた時間だった。
──────────
🫧この形の私

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
この出来事を、別の視点で読む
▷ なぜ、私は安心できていたのか(考察・無料)
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
▶ 次の出来事へ(散らばったご飯) 🔥4
