焦げたクッキーとハウルの城
「結婚式の準備って、大変だ」
私は作った席次表を持ったまま、
床に倒れ込んだ。
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手作りでこだわりたい。
でも、お金はかけられない。
「だからさ」
私は基くんのそばに近寄った。
「手作り、手伝って」
「ええ~?大変だろ、それ」
漫画を広げたまま、基くんは悲鳴をあげた。
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けれど、作業が始まると
基くんはボヤきながらも私のわがままに
ずっと付き合ってくれた。
私たちの予算では、
普通の結婚式場で
披露宴をすることはできなかった。
そこで少しおしゃれな洋風居酒屋を予約した。
無料で貸し切れる公園のようなガラス張りの建物で式を挙げることにした。
担当のプランナーさんのおかげで、
低予算でも満足いくプランになった。
音楽、ドレス、席次表、景品、引き出物。
ふたりで、仕事終わりに集まり
ひとつずつ終わらせた。
残り、1週間。
残るは、出席してくれる皆に渡す
お菓子の用意だけだった。
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「クッキーも手作りしたいな」
そう言い出したのは、今回も私だった。
「手伝って、基くん」
「ええ~!また大変なこと言い出した」
基くんは、首を振った。
「……まぁ、やるか」
「ありがとう、基くん」
「結婚式の前日は、それぞれの家で
最後の独身の夜を過ごそうよ。
その方が、結婚するんだなって実感湧きそうだし」
私が言うと、基くんが笑った。
「じゃあ、クッキーは、その前の日だな」
結婚式の2日前に
ふたりでクッキーを焼くことにした。
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クッキーを焼く日。
私たちは朝から、住む予定の家にいた。
基くんが、必死にクッキーの生地をこねる。
私はそれを型抜きをし、
何度もオーブンで焼き続けた。
黙々と作業をした。
「今、何枚?」
「まだ半分いってない」
「うわ、辛いね」
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疲れ果てた私たちは、
途中でベッドに転がり、休憩する。
テレビでたまたま流れてきた『ハウルの動く城』。
いつも以上に面白く、心がほどけるようだった。
「いやぁ、ハウルかっこいいわぁ」
「みのり、さっきから、それしか言ってない」
楽しく話しながら見ていた……はずだった。
――そこで、私の記憶は途絶えた。
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ふと目を開けると、ベッドには私一人。
カーテンの隙間が少し明るい。
「やばい…」心臓が跳ねる。
時計を見ると、6時半。
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基くん、どこ?
ベッドから飛び起き、リビングを探す。
台所に行くと、
そこには信じられない光景があった。
シンクには真っ黒に焦げた
クッキーの残骸が散乱し、
床にも粉と破片がこぼれている。
思わず息をのむ。
「え、これ…どうなってるの…」
言葉にならないまま、ソファーを見ると、
ソファーの隙間に足が見えた。
「基くん?」
私が声をかけると、その足の主は
ゆっくりと起き上がった。
寝ぼけた顔で目をこすりながら笑った。
「…おはよう、みのり」
「ごめん、寝ちゃった…!
どうしよう…クッキー!」
焦りが止まらない私に、彼はニヤリと笑う。
「見てみ、俺はやったぜ」
台所の机の上には、
人数分のハート型クッキーが、
きれいにラッピングされて並んでいた。
「すごい!」
私は思わず手を叩いた。
「ありがとうーー !寝ちゃってごめん」
「うん、ほんとに気持ちよさそうに寝てたわ」
基くんは、いつもの顔で笑った。
「もしかして、基くん……寝てない?」
「寝たよ」
基くんは、いたずらっぽく笑った。
「みのりは、かわいそうだから
寝かせてやった」
相変わらずの軽口。
「…ところで、あの、
シンクがすごいことになってるんですが?」
私は床とシンクを指さす。
「…あ、バレた?
めちゃくちゃ失敗したんだよね」
彼は笑った。
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その夜の「ハウル事件」と「クッキー事件」は、
その後も二人の間で何度も話題に出る
思い出になった。
ありがとう、基くん。
私は笑う彼の横顔を見つめた。
私、やっぱりこの人と一緒にいたい。
それが私たちの、
独身の最後から二番目の日だった。
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🫧この形の私

