頼んでないけど、役に立った
ある日の昼休み。
私はいつも通り、手作りのお弁当を食べていた。
この日のメニューは、ご飯にふりかけ、半分に切ったゆで卵に塩。
ゆでたブロッコリーとミニトマト、鶏肉を切って塩胡椒で炒めたもの、茹でもやし。
質素ではあったけれど、特に不満はなかった。
モチノさんがそんな私のお弁当を覗き込んだ。
「こんなお弁当よう食べれるな。
ほんまに貧乏くさいお弁当やな。」
この頃になると、
「この人は思ったことを言ってるだけ」
それが少し分かるようになっていた。
「そうですね。もうちょっと色々作れたらいいんですけどね」
と、表面だけをなぞるような言葉を口にした。
本心では、何一つそう思っていなかったけれど。
相変わらず今日も安定の失礼さ。
私は知らん顔をしてお弁当を食べ続けた。
モチノさんは、得意げに続けた。
「あんた、家で焼き魚とか煮魚とか作らへんやろ。
料理してへんの、見たら分かるわ」
モチノさんの言う「料理」が何を指しているのか、私にはよく分からなかった。
確かに魚料理は作っていなかった。
高いから。
そして、別に食べたいとも思わなかった。
全く料理をしていないわけでもない。
しかしそれをわざわざこの場で説明するのも
馬鹿らしい。
「そうかもしれませんね」
と静かに流した。
「一人暮らしやのに、栄養偏るやろ。
もっと勉強せなあかんわ。適当すぎんねん」
「ほんとですね。がんばらないといけませんね」
棒読みでそう言い、遠くのテレビに視線を向けた。
私の料理を、誰かに値踏みされる筋合いはない。
自分なりに工夫してやっている。
それで十分だと思っていた。
けれど、口には出さなかった。
─────
翌朝、出社すると、私の机の上に大きな段ボールが置いてあった。
「こんな荷物、届く予定あったっけ?」
差出人のシールも貼っていない。
誰かの宅配希望かな。
覚えがなかった。
他の人が出社したら確認しよう。
給湯室へ行く途中、トイレから出てきたモチノさんとすれ違った。
「おはようございます」
社内には、私とモチノさん、別の階にヤマダさんがいるだけ。
まだ誰も来ていなかった。
するとモチノさんが近づいてきて言った。
「机の上に段ボールあったやろ。あれ、私からやねん」
「そうなんですね。どこかに送るやつですか?」
「あんた、全然料理してへんやろ。
昔使ってた古いグリル、持ってきてやってん。
あれで魚でも焼いて、ちゃんと料理しぃや。」
得意げな顔だった。
別に頼んでない。
え、これ持って帰るの。
そう一瞬思った。
しかし、もらえるものはもらっておいた方が
角が立たないのだろう、そう思った。
「ありがとうございます」
私はそう言って、段ボールを紐でくくり、電車で三十分かけて家に持ち帰った。
重くはなかったが、大きくて正直邪魔だった。
帰り際にも、社内で
「それ、めっちゃ大きいな」
「大荷物やなぁ」
と声をかけられ、そのたびに
「そうですね。でも思ったほど重くないんですよ」
と答えた。
いちいち反応するのが、少し面倒だった。
家に帰り、リビングに置いて、ため息を一つ。
段ボールを開けると、中には昭和っぽいデザインの大きな魚焼きグリルが入っていた。
家庭用としてはかなり立派なものだった。
使えそうではあったけれど、収納が少ない。
考えた末、段ボールごとベッドの下にしまった。
「どうせ使わないだろう」
そう思っていた。
けれど、この魚焼きグリルは素晴らしかった。
魚を焼くと驚くほどきれいに火が通る。
焼き鳥も香ばしく、お店の味に変身する。
しかも煙がほとんど出ず、部屋も臭くならない。
それは思いのほか優秀な代物だった。
この魚焼きグリルは、その後、異変を感じるまでの何十年もの間、
私のもとで活躍し続けることになる。
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🫧この形の私

