夏休みだな
もう無理だ。
直感で分かった。
会社に言ったが、繁忙期が目前に迫っていた。
上司は言った。
「困るよ」
「今、繁忙期なんだ」
「君が抜けたら回らないだろう?」
埒が明かない。
コーヒーの件も何も解決してない、
対策も立てない。
もう、うんざりしていた。
私は友人に相談し、心療内科を受診した。
「具合が悪くて、眠れません。
生きるのが辛いです」
そういうと、あっという間に診断書が出た。
“三ヶ月の休養を必要とする”
「あなたは、うつ病ではないけど、
休んだ方がいいですね」
「判断力はしっかりしてますね、
元気はないかもしれないけど」
それが、先生の見立てだった。
会社に行き、一直線に上司の元へ。
机の上にパンッと診断書を出した。
上司は、驚いた顔でこちらを見た。
「そういうことなので、明日から休みます」
上司はしぶしぶ受け取った。
「…君が辛いのはよく分かった。
でも、2週間、お盆までに
何とか出てくれないか?頼む」
頼まれても、知らない。
私が何度も「何とかしてくれ」と言った時
あなたは、何もしなかったじゃないか。
そう思ったけれど、言わなかった。
私は会社を休むことになった。
正しいことを言っても、
何も変わらない場所に立ち続けていた。
それだけだった。
─────
最初の一日は、ほとんど何もできなかった。
布団の上で、天井を見ていた。
考え事も、涙も、特別な感情もなかった。
二日目、少しだけ体が動いた。
部屋の中で窓を開けた。
外が眩しい。
緑が濃くて、美しいのが見えた。
三日目。
朝、階段を降りた所で
顔を洗い終わった父とすれ違った。
この時間にパジャマでウロウロしている私に
父が言った。
「今日、会社行かないのか、休みか?」
私は無表情で答えた。
「ちょっと、しばらく休むことにした」
そう答えると、父はふん、と笑って言った。
「夏休みだな。ラッキーじゃないか」
驚いた。
心配も、説教も、正論もなかった。
責められることもなかった。
その一言で、何かが軽くなった。
父の口から出たその言葉。
その日は、怒りではなく、
たまたま、別の言葉が出ただけだった。
優しい父親になったわけではない。
それは分かっていた。
でも、たまにそんな日が、父にはあった。
それでも、心は見違えるほどに軽くなった。
─────
そのまま、2階へ上がり
窓の外を見た。
太陽が眩しい。
澄んだ青が見えた。
「今日、晴れてたんだ」
私は部屋の布団から、
シーツやタオルをはぎ取った。
それを、洗濯機に突っ込み、全部洗った。
ぬいぐるみが洗濯機の中で
くるくるまわる姿に癒された。
干せるものは全部干した。
家の外には出られなかった。
でも、ベランダに立って空を見ることはできた。
少し心が晴れた。
─────
その日、母に休むことを伝えた。
「いいんじゃない」
「まぁ、ゆっくりしたら?」
責められなくて良かった。
“夏休みだな。”
あの一言は、
私に「休んでもいい」と許可をくれた
そんな、言葉だった。
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🫧この形の私

