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経済施策を一体的に講ずることによる安全保障の確保の推進に関する基本的な方針(案)等についてを読んでみた件について――経済安全保障のために、海外に「日本の工場」を作るのか

経済安全保障のために、海外に「日本の工場」を作るのか

――今回のパブリックコメントを読んで見えてきた、もう一つの問題

先日から、政府が実施している「経済施策を一体的に講ずることによる安全保障の確保」に関する一連のパブリックコメントを読んでいる。

最初は、半導体や重要鉱物などのサプライチェーンを強靱化するための政策だと思っていた。

もちろん、それは間違っていない。

しかし、6本の基本方針を順番に読み、さらに「特定海外事業」の制度まで掘り下げていくと、もう少し大きな構想が見えてくる。

それは、

日本の経済安全保障のために、海外に事業・技術・生産能力そのものを確保する

という発想である。

そして、ここまで来ると、一つの疑問が生まれる。

では、その海外事業を誰が、どのように守るのか。


「国内の供給網を守る」だけではない

今回の経済安全保障政策の中心には、重要物資の安定供給がある。

国民生活や経済活動に不可欠であり、外国への依存度が高く、供給途絶の可能性がある物資について、政府が安定供給確保のための措置を講じる。

これは理解しやすい。

半導体、重要鉱物、エネルギーなどについて、

「一つの国に依存しすぎるのは危険だ」

という考え方である。

しかし、今回の制度にはもう一つの柱がある。

特定海外事業だ。

これは、経済安全保障上重要な海外事業を支援するための制度である。

つまり、

日本国内に工場を作る

だけではなく、

海外に日本のサプライチェーン上必要な事業基盤を確保する

という考え方になる。

ここが今回の制度を読む上で重要なポイントだと思う。


では、その「海外事業」は誰が行うのか?

ここで私は一つ疑問を持った。

普通に考えれば、

民間企業が海外に投資する

政府がそれを支援する

という制度なのだろう。

しかし、今回の制度が本当にそれだけなのか。

つまり、

「特定海外事業は民間企業による海外投資に限定されるのか?」

という問題である。

もし民間企業だけなら、それは比較的分かりやすい。

企業がリスクを判断し、政府が経済安全保障上必要な事業を支援する。

ところが、もし国、独立行政法人、特殊法人、政府関係機関などが海外に事業基盤を設置・保有・運営することまで排除されていないのであれば、話は変わってくる。

極端な例を考えてみよう。

日本の重要物資を確保するために、

海外に鉱山を持つ。

あるいは、

海外に精錬施設を持つ。

さらに、

海外に半導体製造施設を持つ。

こうしたことを国家が直接、あるいは政府関係機関を通じて行うことまで制度上否定されているのだろうか。

私は、ここは明確にしておく必要があると思う。


異変を見抜く青年探偵の夜(笑)

「官営工場」は本当に否定されているのか

もちろん、現時点で、

「政府が海外に官営工場を建設する制度だ」

と断定するつもりはない。

そこまで読むには、対象事業者、認定制度、支援措置、関係法令をさらに精査する必要がある。

しかし重要なのは、

それを明確に否定する規定があるのか

ということだ。

もしないのであれば、パブリックコメントで聞く価値がある。

実際、政府が海外に国の施設を設置すること自体は、前例がないわけではない。

国立天文台のハワイ観測所、そして「すばる望遠鏡」がその一例だ。

ただし、これは非常に特殊なケースである。

日本国内では得られない観測環境を求めて、国立研究機関の研究施設を海外に設置したものだ。

つまり、

日本の行政目的を達成するために、必要な場所が海外だった

という話である。

ところが今回の経済安全保障は違う。

こちらは、

日本の供給能力・技術・事業基盤を海外に配置する

という発想だからだ。

研究施設と、経済安全保障上の生産拠点では、その国家的意味は大きく異なる。


そして「海外に工場を作る」なら、次の問題が発生する

仮に日本の経済安全保障のために海外に重要な施設を作ったとする。

その国で平和が続いている間はいい。

問題は、その国が不安定になった場合だ。

例えば、

  • 戦争

  • 内戦

  • テロ

  • 政変

  • 外交関係の悪化

  • 経済制裁

  • サイバー攻撃

  • 国有化・接収

などが起きた場合である。

工場そのものが無事でも、原材料が入ってこないかもしれない。

製品を港まで運べないかもしれない。

港が封鎖されるかもしれない。

日本への輸送ルートが途絶するかもしれない。

そして最も深刻なのは、そこで働く日本人や日本企業の社員の安全である。


外務省の「危険情報」とどう整合するのか

ここで、外務省の海外安全情報との整合性が問題になる。

外務省は海外の地域について、

  • レベル1:十分注意してください

  • レベル2:不要不急の渡航は止めてください

  • レベル3:渡航は止めてください

  • レベル4:退避してください。渡航は止めてください

という危険情報を発出している。

レベル3やレベル4に指定された地域も現実に存在する。

では、仮にそうした地域が日本の経済安全保障上重要だったらどうするのか。

外務省は、

「渡航を止めてください」

と言う。

しかし経済安全保障政策では、

「この地域に日本の重要物資の製造拠点を確保します」

となったらどうなるのか。


民間企業なら「自己責任」で済むのかもしれない

民間企業なら、

「この国は危険だが、事業として必要だから投資する」

という判断はあり得る。

もちろん、政府として安全情報を提供する必要はある。

しかし最終的には企業がリスクを負う。

ところが、国家が直接関与する場合は違う。

もし日本政府自身が海外に重要施設を持っていたら、

誰がその施設を守るのか?

という問題が出てくる。

現地政府に警備を頼むのか。

民間警備会社を使うのか。

日本政府が費用を負担するのか。

邦人を退避させるのか。

施設を放棄するのか。

それとも、経済安全保障上重要だから施設を維持するのか。


さらに厄介なのが「退避」と「供給確保」の衝突

例えば、日本の重要物資を生産する海外工場がある。

そこに政変が起きた。

外務省の危険情報がレベル4になった。

当然、日本人従業員には退避が求められる。

しかし、その工場が日本のサプライチェーンにとって重要だったらどうするのか。

選択肢は簡単ではない。

人を退避させるのか。

工場を維持するのか。

重要物資の供給を優先するのか。

もし工場を維持するのであれば、その安全を確保する責任が発生する。

ここまで来ると、もはや単純な「海外投資」の話ではない。

外交、防衛、警察、邦人保護、経済政策、財政政策が全部つながってくる。


そもそも「海外に作れば確保できる」のか

ここも今回の制度で考えなければならない問題だと思う。

例えば日本が海外に半導体工場を作った。

それによって生産能力は確保できる。

しかし、その半導体を日本に運べなければ意味がない。

海外の鉱山から重要鉱物を採掘できても、

精錬できない

輸送できない

港湾が使えない

日本に届かない

となれば、日本の供給安全保障にはならない。

つまり、

「海外に生産能力を置くこと」と「日本への安定供給を確保すること」は同じではない。

海外事業を経済安全保障の手段とするのであれば、

  • 生産

  • 精製

  • 備蓄

  • 港湾

  • 海上輸送

  • 保険

  • 決済

  • 通信

  • サイバーセキュリティ

まで含めたシステムとして考える必要がある。


では、国内投資より海外投資を優先する理由は何なのか

ここで、もう一つ重要な問いが出てくる。

同じ資金を使うなら、

国内に工場を作る。

という選択肢もある。

もちろん、資源そのものが海外にしか存在しない場合など、海外投資に合理性があるケースはある。

しかし、

国内に生産能力を作る方が安全なのではないか?

というケースも当然ある。

それにもかかわらず、海外事業を国家として支援するのであれば、

なぜ国内ではなく海外なのか?

という説明が必要になる。

そして、ここは今回の制度の「成長戦略」としての位置付けにも関係してくる。


「国内への裨益」は必須ではない

今回の特定海外事業の基本指針で特に気になったのが、

「国内への裨益の考慮」

という部分だった。

海外事業によって得られた知財やデータを国内投資につなげる。

海外展開によって日本の技術、ノウハウ、人材を維持・向上させる。

こうしたことが挙げられている。

しかし表現は、

「考慮する」

である。

つまり、

日本国内への経済的なプラスが絶対的な認定要件とはなっていない。

これは重要なポイントだ。

もし安全保障上の必要性があれば、

国内経済にはそれほど利益がないが、国家安全保障のために海外事業を支援する

という政策も理論上は成立する。

それ自体が悪いとは思わない。

安全保障には、当然「採算が合わないが必要」という領域があるからだ。

しかし、その場合は明確に、

これは成長戦略なのか?

という問題が出てくる。


経済安全保障は「成長戦略」なのか「国家安全保障」なのか

今回の制度を読んでいて、私が最も気になったのはここである。

経済合理性が低くても、安全保障上必要なら国が支援する。

海外の重要事業を国家として確保する。

重要技術を国家として育成する。

重要インフラを国家として監視・防護する。

これは明らかに、従来の産業政策とは違う。

むしろ、

国家安全保障のために経済政策を利用する

という政策になっている。

それならば、それで構わない。

しかし、

経済成長のための政策

と、

安全保障のための政策

は、分けて説明した方がいいのではないか。


今回のパブコメで政府に聞くこと

そこで、今回のパブリックコメントでは、単に、

「経済安全保障は重要だと思います」

とか、

「もっと国内産業を支援してください」

という意見を出すのではなく、もう少し具体的な質問をすることにした。

例えば、

① 特定海外事業は民間企業だけなのか

国、独立行政法人、特殊法人、政府関係機関等が海外に製造施設・採掘施設・精製施設・物流施設等を設置・保有・運営することを想定しているのか。

② その場合の法的根拠は何なのか

海外における公的施設の設置・財産取得・管理・運営について、どの法律を根拠とするのか。

③ 危険地域との整合性はどうするのか

外務省の危険情報レベル3・4の地域についても特定海外事業を認定・支援することがあるのか。

④ 事業開始後に危険になったらどうするのか

戦争、テロ、政変等によって危険情報が引き上げられた場合、事業を継続するのか、撤退するのか。

⑤ 誰が施設を守るのか

経済安全保障上重要な海外施設に対する攻撃・妨害について、政府はどこまで責任を負うのか。

⑥ 損失は誰が負担するのか

戦争や接収等で事業資産を失った場合、最終的に誰が損失を負担するのか。

⑦ 海外に作ることが本当に供給確保になるのか

生産施設だけでなく、輸送・港湾・決済・通信等を含めて供給網全体の安全性を評価するのか。

⑧ 国内投資との比較はするのか

同じ資金を国内に投入する場合と比較して、海外事業の安全保障上の効果を評価するのか。

そして最後に、

⑨ これは成長戦略なのか、安全保障政策なのか

経済成長と経済安全保障が一致しない場合、政府はどちらを優先するのか。

と問う。


「海外に日本のための経済基盤を作る」ということ

今回の制度を読んでいて、私は最初に考えていたよりもずっと大きな問題だと感じるようになった。

「サプライチェーンを強靱化します」

と聞けば、国内工場を増やしたり、複数の調達先を確保したりする話に聞こえる。

しかし、そこから一歩進んで、

海外に日本のための生産能力を確保する

となると話が変わる。

さらに、

それを国家が支援する。

さらに、

もし国家自身が海外施設を保有・運営できるのなら?

ここまで来ると、単なる経済政策ではない。


かつての「海外進出」と何が違うのか

もちろん、現在の日本が過去の帝国主義的な海外進出を目指している、などと言いたいわけではない。

そこは明確に区別すべきだ。

しかし、

国家の安全保障上必要な経済基盤を国外に配置する

という発想そのものには、歴史的に見ても慎重な検討が必要だと思う。

領土を支配する必要はない。

現地政府と契約し、現地企業と提携し、出資し、施設を建設すればいい。

しかし、その施設が日本の安全保障にとって不可欠になればなるほど、

その施設を守ることも、日本の国家的利益になる。

ここが重要なのだ。


経済安全保障の「最後の一行」が書かれていない

今回の制度を読んで私が感じた最大の疑問は、ここである。

政府は、

海外に重要な経済基盤を確保する

ところまではかなり具体的に書いている。

しかし、

その経済基盤を有事にどうするのか

については、まだ十分に見えてこない。

戦争になったら?

テロが起きたら?

政変が起きたら?

外務省が退避勧告を出したら?

港が封鎖されたら?

現地政府が施設を接収したら?

日本人従業員を退避させたら?

それでもその工場は「日本の経済安全保障上重要」なのか?

重要なら、誰が守るのか。

そして、どこまで守るのか。


経済安全保障とは、結局何なのか

今回の6本のパブリックコメントを読み、最後に残った疑問は、

「経済安全保障とは、どこまでを国家の責任とする政策なのか」

ということだった。

重要物資を確保する。

重要技術を育てる。

海外に事業基盤を作る。

重要インフラを守る。

それ自体は理解できる。

しかし、それを国家政策として一体的に進めるなら、

「その結果として生じる新しいリスクを、誰が引き受けるのか」

まで書かなければならない。

経済安全保障は、単に「供給を確保する」という話ではない。

どこに作るのか。

誰と作るのか。

誰が所有するのか。

誰が守るのか。

危険になったらどうするのか。

撤退したら誰が損失を負うのか。

そして、

それは成長戦略なのか、安全保障政策なのか。

この問いに政府がどう答えるのか。

今回のパブリックコメントでは、そこを聞いてみたいと思う。

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