オーストリアがヨルダンに3-1勝利。28年ぶりのW杯で見えたセットプレーの強さとアルゼンチン戦への宿題
28年ぶりにワールドカップへ戻ってきたオーストリア。
初めてワールドカップのピッチに立ったヨルダン。
試合前から、この一戦には特別な物語がありました。
そして試合が終わったとき、スコアボードには「3-1」。
勝ったのはオーストリアです。
ただ、試合を振り返ると、スコアほど簡単な90分ではありませんでした。
ヨルダンは一度、同点に追いついています。
しかも、その得点は同国にとってワールドカップ史上初のゴールでした。
オーストリアは歓喜に包まれる相手を前に、セットプレーと交代策で流れを取り戻した。
この試合には、ワールドカップで勝ち点3を手にするために必要なものが詰まっていました。
28年ぶりのオーストリアと、初出場のヨルダン
FIFAワールドカップ2026、グループJの初戦。
オーストリアは1998年大会以来、28年ぶりのワールドカップ出場です。
一方のヨルダンは、今回が史上初の本大会出場。
同じグループには、前回王者のアルゼンチンとアルジェリアがいます。
つまり、この初戦は両国にとって非常に大きな意味を持っていました。
アルゼンチンという世界王者がいる以上、残る3か国にとって直接対決での勝ち点は重い。
特にオーストリアは、ヨルダン戦を落とせば、次戦のアルゼンチン戦でいきなり苦しい立場に追い込まれる可能性がありました。
勝たなければならない。
ただし、初戦特有の緊張感がある。
そんな難しい状況で、オーストリアはボールを握り、ヨルダンは自陣を固めました。
オーストリアはボールを持った。ただ、簡単には崩せなかった
試合の構図は、開始直後からはっきりしていました。
オーストリアがボールを保持する。
ヨルダンは守備ブロックを作り、奪った瞬間に縦へ速く攻める。
オーストリアはショートパスをつなぎながら、相手の守備を左右に動かそうとします。
ただ、ヨルダンの守備は簡単には崩れませんでした。
中央を閉じ、ゴール前の人数を減らさない。
オーストリアにボールを持たれても、最後の危険な場所では身体を張る。
ワールドカップ初出場のチームとは思えないほど、落ち着いた守りでした。
こうした守備ブロックを相手にすると、攻撃側は焦りやすくなります。
パスを回しても、前へ進めない。
クロスを上げても、中央ではね返される。
すると、無理なパスや強引なシュートが増えていきます。
しかし、オーストリアは違いました。
守備ブロックの中へ無理に入るのではなく、その手前からゴールを狙ったのです。
シュミットの一撃は、守備ブロックの外から飛んできた
試合が動いたのは20分でした。
ロマーノ・シュミットがペナルティーエリアの外から右足を振り抜きます。
ボールは美しい軌道を描き、ゴール右隅へ。
ヨルダンのGKは、ほとんど反応できませんでした。
守備ブロックを細かなパスで完全に崩したわけではありません。
相手の最終ラインの裏を取ったわけでもない。
守備が届かない場所から、シュートの質だけでゴールをこじ開けました。
これは、引いた相手と戦う際に非常に重要な選択です。
ゴール前を固めるチームは、中央に人数を集めます。
そのぶん、ペナルティーエリアの少し外側には、シュートを打てる空間が生まれることがあります。
そこで迷わず足を振れるか。
そして、枠の隅へ正確に飛ばせるか。
シュミットの一撃は、オーストリアが持つ個の技術を示すゴールでした。
ヨルダンは守るだけではなかった
先制されたヨルダンですが、試合から消えたわけではありません。
守備を固めながら、ボールを奪った瞬間に一気に前へ出る。
その中心にいたのが、ムーサ・アッ=タアマリーとアリ・オルワンでした。
前半終了間際には、右サイドからアッ=タアマリーが切れ込み、シュートまで持ち込みます。
わずかに枠を外れましたが、オーストリアに警告を与えるには十分な場面でした。
ヨルダンの狙いは明確です。
オーストリアが攻撃するために人数を前へかけた瞬間、その背後を使う。
ボールを長く持つ必要はありません。
奪ってから数本のパスで、ゴール前まで運ぶ。
ボール保持率では負けても、相手の守備が整う前に攻めれば、得点の可能性は作れます。
そして後半、その狙いが実を結びました。
アリ・オルワンが刻んだ、ヨルダンW杯史上初ゴール
50分。
ヨルダンはピッチ中央でボールを奪いました。
そこからアリ・オルワンが左サイドを力強く前進します。
オーストリアの守備が戻り切る前に、鋭いシュート。
ボールはゴールへ吸い込まれました。
1-1。
ヨルダンにとって、記念すべきワールドカップ初得点です。
初出場国の最初のゴールには、数字以上の重みがあります。
予選を勝ち抜いてきた時間。
初めて世界の舞台へ立った選手たち。
スタンドを埋めたサポーター。
そのすべてが、ひとつのゴールに詰まっていました。
オルワンは、この試合の最優秀選手にも選ばれています。
敗れたチームから最優秀選手が選ばれたことにも、このゴールとパフォーマンスの価値が表れていました。
ただし、ワールドカップは物語だけでは勝てません。
歴史的な同点ゴールを決めた直後から、オーストリアはさらに圧力を強めました。
59分の3枚替えが、オーストリアの焦りを消した
同点に追いつかれたオーストリアは、59分に3選手を同時に交代しました。
初戦で勝ち点3が欲しい。
次戦はアルゼンチン。
オーストリアにとって、引き分けでは満足できません。
ただ、ここで無計画に前線の人数だけを増やせば、ヨルダンのカウンターを受けやすくなります。
だからこそ重要だったのが、選手交代によって攻撃の強度と配置を整え直したことです。
交代選手を入れたことで、オーストリアは前からの圧力を強めました。
同時に、サイドとセットプレーからゴールへ近づいていきます。
68分には、CKの混戦からマルコ・アルナウトヴィッチがネットを揺らしました。
しかし、その前にシュテファン・ポッシュの手へボールが当たっていたとして、オンフィールドレビューの結果、得点は取り消されます。
オーストリアにとっては、精神的に難しい場面でした。
一度は勝ち越したと思った。
歓喜した。
しかし、判定によって得点が消えた。
それでも攻撃を止めなかったことが、この試合の大きなポイントです。
勝敗を分けたのは、止まったボールだった
76分。
再びオーストリアがCKを獲得します。
キッカーはマルセル・ザビッツァー。
鋭いボールがゴール前へ入り、ヨルダンのアッ=アラブのオウンゴールを誘いました。
オーストリアが2-1と勝ち越します。
流れの中では、ヨルダンの守備ブロックに苦しんでいました。
それでもCKなら、守備の形をいったんリセットできます。
守備側はボールと相手選手を同時に見なければならない。
攻撃側は、あらかじめ決めた動きで相手をずらせる。
ほんの一歩の遅れ。
身体の向き。
ボールへ触れる足の角度。
セットプレーでは、その小さな差が得点になります。
今回も、ザビッツァーのボールがゴール前に混乱を起こし、オウンゴールにつながりました。
崩し切れない試合でも、セットプレーがあれば勝ち筋を作れる。
オーストリアは、そのことを証明しました。
3-1という結果ほど、余裕のある勝利ではなかった
ヨルダンは81分と87分に計4選手を投入し、再び同点を目指しました。
途中出場の選手を中心にサイドから攻め、ゴール前へボールを送ります。
しかし、最後の一線を越えられませんでした。
後半アディショナルタイムには、オーストリアがPKを獲得。
アルナウトヴィッチが落ち着いて決め、3-1としました。
ただ、この得点が記録されたのは90+12分。
つまり、オーストリアが完全に試合を決めたのは、本当に最後の最後です。
スコアだけを見ると、オーストリアの快勝に見えるかもしれません。
しかし実際には、一度追いつかれ、勝ち越し点はオウンゴール。
さらに、その前にはVARによる得点取り消しもありました。
3-1という結果の中に、ワールドカップ初戦特有の苦しさが隠れています。
オーストリアが示した強みと、残された宿題
オーストリアの強みは、ひとつの攻め方に固執しなかったことです。
ボールを保持する。
相手を引きつけてカウンターを狙う。
ミドルシュートを打つ。
セットプレーを生かす。
選手交代で強度を上げる。
さまざまな手段を使いながら、勝利へ近づきました。
また、オーストリアはこれまでワールドカップで戦った全30試合において、無得点に終わった試合が一度もありません。
大会をまたいでも必ず得点してきたというのは、非常に興味深い記録です。
一方で、課題もあります。
ヨルダンの守備ブロックを、流れの中から何度も崩せたわけではありません。
さらに、中央でボールを失った場面から、オルワンに同点ゴールを許しました。
次戦の相手はアルゼンチンです。
メッシだけでなく、周囲の選手もボールを奪った瞬間の判断が速い。
ヨルダン戦と同じように中央でボールを失えば、より大きな代償を払う可能性があります。
次戦アルゼンチン戦で問われる、本当の守備力
オーストリアの次戦は、王者アルゼンチンです。
この大会のアルゼンチンは、初戦でメッシがハットトリックを記録しています。
ワールドカップ通算16得点。
メッシの個人技はもちろん脅威です。
ただ、アルゼンチンの本当の強さは、メッシだけに頼らない構造にあります。
メッシが自由に動けば、別の選手が幅を取る。
メッシが下がれば、前線の選手が背後へ走る。
ボールを失えば、周囲の選手がすぐに奪い返す。
オーストリアはヨルダン戦のように、多くの時間でボールを持てるとは限りません。
むしろ、守る時間が長くなる可能性があります。
その中で重要になるのは、奪った後の最初のパスです。
アルゼンチンのプレスを外し、前へ運べるか。
セットプレーを獲得できるか。
そして、少ない決定機をシュミットやアルナウトヴィッチが仕留められるか。
ヨルダン戦で見せたセットプレーの強さは、アルゼンチン相手にも武器になります。
ただし、守備の一瞬の緩みは許されません。
ヨルダンは敗れても、世界に一歩を刻んだ
ヨルダンは敗れました。
しかし、何も残らなかったわけではありません。
初めてのワールドカップでゴールを決めた。
オーストリアを一度は追いつめた。
守備ブロックとカウンターが、世界の舞台でも通用する時間を作った。
MFヌール・アル=ラワブデは、試合後に好機を生かせなかったことを敗因として挙げました。
ワールドカップでは、チャンスの数が多いとは限りません。
3回の決定機を作っても、1回しか決められなければ勝てないことがあります。
逆に、数少ないセットプレーを得点につなげれば、オーストリアのように勝ち点3を手にできます。
この厳しさこそ、ワールドカップです。
ヨルダンの次戦はアルジェリア。
初戦で得た自信と悔しさを、次の90分へどうつなげるか。
オルワンの歴史的ゴールを、国として初めての勝ち点へ変えられるのか。
注目したいと思います。
VAR、セットプレー、データを知ると試合はもっと面白くなる
今回の試合では、オンフィールドレビューによってオーストリアの得点が取り消されました。
さらに、勝ち越し点はCKから生まれ、試合終了間際にはPKが決まりました。
こうした試合を見ていると、現代のワールドカップは、ゴールが入った瞬間だけを見ても全体像が分からないと感じます。
なぜVARが介入したのか。
どこにハンドがあったのか。
CKでどの選手が相手を動かしたのか。
交代選手が入ったことで、チームの配置はどう変わったのか。
そこまで分かると、ひとつのゴールが立体的に見えてきます。
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試合を観たあとに、
「なぜ、このゴールは生まれたのか」
「なぜ、この得点は取り消されたのか」
「交代によって何が変わったのか」
と考えるための一冊です。
W杯をもっと深く楽しみたい方はこちらからご覧ください。
勝利を決めたのは、派手な攻撃だけではない
オーストリアは、28年ぶりのワールドカップ初戦を勝利で飾りました。
シュミットの美しいミドルシュート。
ザビッツァーのCK。
アルナウトヴィッチのPK。
3つの得点は、それぞれ違う形から生まれています。
一方、ヨルダンもオルワンのゴールで歴史を刻みました。
この試合が教えてくれたのは、ワールドカップでは一つの武器だけでは勝ち切れないということです。
ボールを持つ力。
守備を崩す技術。
選手交代。
セットプレー。
VAR判定後に気持ちを切り替える精神力。
そのすべてを積み上げたチームが、最後に勝ち点3を手にします。
オーストリアは初戦の目標を達成しました。
しかし、次に待つのは王者アルゼンチン。
ヨルダン戦で見えた強さが本物なのか。
それとも、メッシと世界王者の前で新たな課題を突きつけられるのか。
グループJは、ここからさらに面白くなりそうです。
観るだけのサッカーから、理解して語れるサッカーへ。
Leo Costa フットボール分析室
