イングランドがクロアチアに4-2勝利。ケインW杯10得点とベリンガムが示した“追いつかれても崩れない強さ”
二度、追いつかれました。
それでも、イングランドは下を向きませんでした。
三度目のリードを奪い、最後は4点目まで決めた。
FIFAワールドカップ2026、グループL初戦。
イングランドはクロアチアとの激しい打ち合いを4-2で制しました。
ハリー・ケインは2得点。
ワールドカップ通算10ゴールに到達し、ゲーリー・リネカーが持つイングランド代表の大会最多得点記録に並びました。
決勝点を決めたのは、ジュード・ベリンガム。
そして、試合を終わらせたのはマーカス・ラッシュフォードです。
ただし、この試合で最も印象に残ったのは、4つのゴールだけではありません。
二度リードを失っても、攻撃することをやめなかったイングランドの姿勢です。
2018年大会の準決勝で敗れた相手を前に、トーマス・トゥヘル監督率いる新しいイングランドが、ひとつの答えを示しました。
2018年の記憶が残る再戦
イングランドとクロアチア。
この組み合わせを聞くと、2018年ロシア大会を思い出す人も多いでしょう。
準決勝で対戦した両国は、延長戦の末にクロアチアが2-1で勝利。
イングランドは、決勝進出まであと一歩のところで敗れました。
あれから8年。
大会も、監督も、選手の顔ぶれも変わりました。
それでも、ワールドカップでの再戦には特別な緊張感があります。
しかも今回は、トゥヘル監督にとってワールドカップ初戦。
優勝を期待されるイングランドが、どのようなサッカーを見せるのか。
立ち上がりから注目が集まりました。
試合開始直後は、クロアチアが高い位置から圧力をかけます。
イングランドに簡単にボールを運ばせない。
最終ラインや中盤へ積極的に寄せ、早い時間帯から主導権を握ろうとしました。
しかし、最初に試合を動かしたのはイングランドでした。
PKのやり直しを、ケインは迷わず決めた
前半12分。
イングランドがPKを獲得します。
キッカーはケイン。
いつものように落ち着いてゴールを狙いましたが、クロアチアGKドミニク・リヴァコヴィッチがセーブしました。
クロアチアにとっては、大きなプレー。
しかし、判定はそこで終わりません。
リヴァコヴィッチの飛び出しが早かったとして、PKのやり直しが命じられました。
一度止められた直後に、同じGKと再び向き合う。
キッカーにとって、簡単な状況ではありません。
GKは先ほどの蹴り方を知っています。
自分自身にも「また止められるかもしれない」という記憶が残る。
それでも、ケインは2本目を確実に決めました。
イングランドが1-0と先制します。
ここに、ケインの強さがあります。
技術だけではありません。
判定が変わっても、状況が揺れても、自分の仕事をやり直せる。
ゴールを決める選手とは、失敗しない選手ではなく、失敗の直後にも同じ責任を背負える選手です。
イングランドは押し込んだ。しかしクロアチアは一撃で戻った
先制後、イングランドは攻勢を強めました。
ボールを保持し、クロアチアを自陣へ押し込みます。
ただし、クロアチアは完全には崩れません。
守る時間が長くなっても、ボールを奪った瞬間に前へ出る準備を続けていました。
36分。
マルティン・バトゥリナがペタル・スーチッチとのワンツーで中央へ進みます。
ペナルティーエリアの外から右足を振り抜くと、シュートはトップコーナーへ。
ジョーダン・ピックフォードも触れましたが、止められませんでした。
1-1。
クロアチアは、数少ない好機を見事に仕留めました。
イングランドはボールを持っていました。
しかし、ワンツーで中央を突破され、シュートを打つ時間を与えてしまった。
ポゼッションの数字で上回っても、相手の一度の攻撃を止められなければ失点します。
このゴールは、クロアチアが長年持ち続けている勝負強さを示していました。
ケインのW杯10得点目は、セットプレーから生まれた
同点に追いつかれたイングランドですが、攻撃の勢いは止まりませんでした。
42分。
デクラン・ライスがコーナーキックを蹴ります。
正確なボールに、ケインが頭で合わせました。
シュートはファーサイドへ。
イングランドが2-1と再びリードします。
この得点で、ケインはワールドカップ通算10ゴール。
ゲーリー・リネカーが持つ、イングランド代表の大会最多得点記録に並びました。
PKで1点。
コーナーキックからのヘディングで1点。
同じ選手の2得点ですが、形はまったく異なります。
ケインはペナルティーエリア内で、ただボールを待っていたわけではありません。
相手DFとの距離を測る。
ボールの軌道を予測する。
ファーサイドへ入り、守備が届きにくい場所で合わせる。
優れたストライカーは、ボールが来てから動くのではなく、ボールが来る前に勝負を始めています。
そして、このゴールは記録の面でも特別でした。
ケインは、3つの異なるワールドカップで得点した、デビッド・ベッカムに次ぐイングランド史上2人目の選手となりました。
二度目の同点。クロアチアはまた倒れなかった
イングランドが前半をリードして終える。
そう思われた45+5分でした。
イヴァン・ペリシッチがボールを落とします。
そこへ走り込んだペタル・ムサがボレーシュート。
再びゴールネットが揺れました。
2-2。
クロアチアが、また追いつきます。
イングランドにとっては、重い失点でした。
一度目のリードは36分に消えた。
二度目のリードは前半終了間際に消えた。
しかも、ハーフタイム直前です。
精神的なダメージが残っても不思議ではありません。
過去のイングランドであれば、こうした展開から慎重になりすぎたかもしれません。
失点を恐れてラインが下がる。
安全なパスが増える。
攻撃よりも、失敗しないことを優先する。
しかし、この日のイングランドは違いました。
後半開始直後、ベリンガムが空気を変えた
後半47分。
試合再開から間もなく、イングランドが三度目のリードを奪います。
エリオット・アンダーソンからパスを受けたジュード・ベリンガムが、右サイドを鋭く前進。
そのままゴールへ向かい、自ら冷静に仕留めました。
3-2。
このゴールが、試合の流れを大きく変えました。
ベリンガムの凄さは、ボールを持った技術だけではありません。
同点に追いつかれた直後に、守りへ入らず前進を選んだことです。
状況によっては、後半の立ち上がりを慎重に進める選択もありました。
まずはボールを回し、試合を落ち着かせる。
それも間違いではありません。
しかし、ベリンガムはクロアチアの守備が整う前に前へ出ました。
ハーフタイム直後は、選手の集中や配置が完全には整っていないことがあります。
そこを逃さず、スピードを上げた。
ベリンガムは、空いている場所だけでなく、攻めるべき時間まで見つけました。
なぜ三度目のリードは消えなかったのか
イングランドは前半、二度追いつかれています。
それなのに、後半の三度目のリードは守り切りました。
理由のひとつは、ベリンガムの得点が早い時間に生まれたことです。
クロアチアは、再び追いかける側になりました。
前へ出なければならない。
そのぶん、後方にはスペースが生まれます。
イングランドは無理に守備へ入りすぎず、追加点を狙う姿勢を残しました。
これが重要でした。
1点差を守ろうとすると、チーム全体が自陣へ下がりやすくなります。
ボールを奪っても、前に味方がいない。
すぐに相手へボールを返し、再び攻撃を受ける。
そんな循環に入ることがあります。
しかし、イングランドにはケイン、ベリンガム、ラッシュフォードら、前へ進める選手がいました。
守備をしながらも、相手に「まだ4点目を取られるかもしれない」と思わせる。
攻撃の可能性を残すことが、結果として守備を助けました。
ラッシュフォードの4点目が、試合を完全に終わらせた
85分。
イングランドが決定的な4点目を奪います。
ゴールを決めたのは、マーカス・ラッシュフォード。
3-2のまま終了を待つのではなく、試合を終わらせるゴールを取りにいきました。
これで4-2。
クロアチアの反撃する時間と希望を、同時に奪いました。
1点差のままなら、コーナーキックやロングボールひとつで同点になる可能性があります。
しかし、2点差になれば、残り時間の意味が変わります。
クロアチアは短い時間で2点を必要とする。
選手はさらに前へ出なければならない。
守備のリスクも大きくなる。
ラッシュフォードのゴールは、単なるダメ押しではありません。
勝利を「期待」から「ほぼ確定」へ変えた得点でした。
トゥヘル体制の初戦で見えた変化
トーマス・トゥヘル監督は、クラブレベルで数々の大舞台を経験してきました。
戦術的な修正力。
相手に応じた配置の変更。
試合中の交代策。
短期決戦を勝ち抜くための現実的な判断。
こうした部分を期待され、イングランド代表を率いています。
今回の初戦で見えたのは、失点後も攻撃の姿勢を失わなかったことです。
もちろん、守備には課題があります。
2度リードしながら2度追いつかれた。
中央を崩され、前半終了間際にも失点した。
優勝を目指すチームとして、簡単に見過ごせる内容ではありません。
ただ、これまでのイングランドには、失点を恐れるあまり攻撃の速度を失う試合もありました。
この日は違いました。
追いつかれたら、もう一度取りにいく。
三度目のリードを奪った後も、4点目を狙う。
守り切るだけではなく、相手を突き放して勝つ。
トゥヘル体制の初戦で、その考え方が見えました。
PKのやり直しは、なぜ起きたのか
この試合では、ケインの最初のPKが止められた後、やり直しになりました。
GKは、ボールが蹴られる瞬間まで、少なくとも片足の一部をゴールライン上、またはその上方・後方に残す必要があります。
今回は、リヴァコヴィッチの飛び出しが早かったと判断されました。
こうした場面は、肉眼だけでは分かりにくいものです。
キッカーの足。
GKの足。
ボールが蹴られた瞬間。
複数の要素を映像で確認しなければなりません。
現代のワールドカップでは、ゴールやPKを喜んだ直後に判定が変わることがあります。
映像判定を知っていると、
「なぜやり直しなのか」
「どこが反則だったのか」
を理解しながら試合を見られます。
判定は、試合を止めるものではありません。
ときには、試合の物語そのものを変えます。
ケインの記録だけでは見えない、イングランドの勝ち方
この試合の見出しを作るなら、ケインのW杯通算10得点が中心になるでしょう。
それだけ大きな記録です。
さらに、ケインはワールドカップでのPK数が通算5本となり、4本で並んでいたメッシを抜いて単独最多となりました。
ただ、記録だけを追うと、この試合の本質を見失います。
イングランドが勝てた理由は、ケインだけではありません。
ライスが正確なCKを蹴った。
ベリンガムが後半開始直後に前進した。
アンダーソンが攻撃の起点になった。
ラッシュフォードが試合を終わらせた。
そして、二度追いつかれてもチーム全体が攻撃の姿勢を捨てなかった。
サッカーでは、ゴールを決めた選手が最も目立ちます。
しかし、そのゴールが生まれる前には、配置、判断、走り、パス、相手の動きがあります。
得点者だけでなく、得点が生まれる構造を見ると、試合はもっと面白くなります。
VAR、セットプレー、選手データでW杯は10倍面白くなる
今回の試合には、現代のワールドカップを楽しむヒントが数多くありました。
PKのやり直し。
セットプレーからの得点。
クロアチアのワンツー。
ベリンガムの前進。
ケインの大会通算記録。
ラッシュフォード投入後の変化。
結果だけを見れば、イングランドが4-2で勝った試合です。
しかし、映像やデータを使って一歩深く見ると、いくつもの問いが生まれます。
なぜPKは蹴り直しになったのか。
ケインは、なぜファーサイドでフリーになれたのか。
ベリンガムは、なぜ後半開始直後に前進できたのか。
トゥヘル監督の交代で、配置はどう変わったのか。
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では、VAR、半自動オフサイド、GPS、選手データ、戦術分析、ChatGPTを使った観戦方法を、初心者にも分かりやすくまとめています。
ゴールを見て終わるのではなく、
「その前に何が起きていたのか」
「映像やデータから何が分かるのか」
を楽しむための一冊です。
ワールドカップをもっと深く楽しみたい方はこちらからご覧ください。
優勝候補として問われるのは、次の試合だ
イングランドは、グループLの初戦を勝利で飾りました。
4得点。
ケインの記録。
ベリンガムの決勝点。
トゥヘル監督の白星発進。
結果だけを見れば、申し分ありません。
ただ、2失点した事実も残ります。
二度追いつかれた守備をどう修正するのか。
リードした後も試合を支配できるのか。
ケインやベリンガムに頼らず、別の選手からも得点を生み出せるのか。
優勝候補は、一試合の派手な勝利だけでは評価されません。
同じ強さを、異なる相手にも再現できるか。
次戦でも、それが問われます。
それでも、この日のイングランドには、これまでとは少し違う力がありました。
追いつかれても、止まらない。
また前へ出る。
そして最後は、相手を突き放す。
2018年の準決勝で敗れたクロアチアを相手に、イングランドは新しい物語を始めました。
観るだけのサッカーから、理解して語れるサッカーへ。
Leo Costa フットボール分析室
