よたよたヒーロー参上~笑顔が溢れる散歩道~「愛犬とみんなと私」
日々変わっていく日常。
愛犬のお散歩の様子も、物凄く変わった。
いつもと同じお散歩で、
いつもと同じ道を歩く。
それでも、世界は移り変わっていく。
愛犬もまた、世界を作り出していた。
その世界は、やさしい陽が満ちていた。
朝のお散歩に行く。
愛犬を抱きかかえ外に出た。
いつもの場所まで抱っこするのがお決まりとなった。
あの横断歩道を渡った先がスタート地点だ。
前に見えたのは、よく会う年配の女性。
「今日は歩かへんの?」
と、心配される。
「いまからです」にこやかに答えると、
微笑み返してくれた。
愛犬をそっと下ろした。
さぁ、歩くよ。
いつもの道をゆっくりと。
次は前から、おじちゃんとおばちゃんがきた。
いつも愛犬を可愛がってくれる人だ。
「おはよう。今日は足取りが軽いな」
おじちゃんが笑った。
歩き出したばかりの愛犬に、
まだ、疲れは見えない。
よたよたばかりじゃない姿を見て、二人も嬉しいみたいだ。
散歩道では、色んな人が声を掛けてくれる。
だけど、交わす言葉も、
老いと共に少しずつ変わっていく。
よたよた歩く愛犬に足を止める。
愛犬を見ていると、 みんな、なにかを応援したくなるみたい。
「何歳?」
「頑張れ!」
「頑張ってるな」
気にかけてくれる人がたくさんいる。
そればかりか、私も頑張らなくっちゃみたいに、 愛犬から元気をもらっている人さえいる。
よたよた歩く愛犬は、それだけでみんなの元気のもとになってるんだなって。
いまは、前とは違う。
呼んでも振り向かないし、尻尾も下を向いたまま。
そばに行っても、ビクッとする時さえある。
だから、
「がっかりさせてしまうかも」
「愛犬が怖がるんだけど」
そんなふうに、とても気になっていた。
だけど、そうじゃなかった。
反応しない愛犬を撫でてくれる人もいる。
愛犬が驚かないように、気遣ってくれている。
みんなの言動で「はっ」となった。
私は人のことばかり気にしていたんだって。
足取りが重いのは、私のほうだった?
愛犬はよたよた一生懸命に歩いている。
みんなには、愛犬の足取りが見えていた。
ちゃんとわかってくれていた。
愛犬のことも、
私のことも。
そんなことも気がつかなかった。
私は、なんにもわかっていなかった。
愛犬と歩く場所は、とても温かい世界が待っていた。
愛犬の老いがまた、私の心を包んだ。
色んな人とすれ違う散歩道。
そこには、毎日色んな顔がある。
愛犬はただ歩くだけ。
愛想もないのに、嫌われたりしない。
愛犬がただそこにいるだけで、
みんなを振り向かせて、人を笑顔にしている。
そんなちっぽけなことに気づかされた。
笑顔の中に隠れた、それぞれが持つ深い思いもあった。
背筋がピンとしている人が多い。
そんな姿勢が物語っているようにも感じた。
毎日歩くってそういうことなんだ。
だからこそ、愛犬の姿が深く心に沁み入るのかもしれない。
ただ、愛犬がかわいいだけじゃなかった。
元気に歩くってこと。
簡単なようで、簡単ではなくなる。
となりにいると、そんなことさえ見えなくなる。
自分が大変だって、自分ばかりに目がいってた。
愛犬のことは、愛おしくて仕方がないけど、
「早く歩いてくれないかな?」
とか、
「お世話しんどいな~」
って、思ってしまう時だってある。
そんな時に、
「頑張ってるな~」
とか言われると、なんだか嬉しかった。
でも、それだけじゃなかった。
私を気遣ってくれる人までいた。
「大変やろ?」
「私やったら、イライラするわ」
そんなふうに言われると、物凄く救われた。
愛犬だけじゃなくて、私も頑張ってるんだって!
愛犬はみんなに元気を届けるヒーローなの?
「よたよたヒーロー参上だ!!」
やっと、アイドルを引退したのに、愛犬は老いても忙しいみたい。
私も、疲れてる場合じゃなかった。
よたよたヒーローに負けてられない。
頑張らないとね。
みんなが笑顔で交わすこのとき。
何気ないただの散歩道にも物語を感じた。
忘れてはいけないのに、見えなくなる。
愛犬は、なにも言わないから。
ただ、目の前の道を一生懸命に歩いているだけだから。
でも、本当にしんどくて、頑張っているのは、
愛犬なのかもしれないって。
みんなの声に隠れていたやさしい世界。
また、新しい扉が開いたね。
深くなった世界の色は、とてもやさしい色なんだって。
愛犬はみんなのヒーロー。
だけど、私だけの特別なヒーローだよ。
よたよたヒーローは、
今日も散歩道をただ歩いている、そんな背中をただ見ていた。
最後まで、読んでくれてありがとうございました。
