心よくわからんクラブ

高校で国語教師をしている。

わたしの勤務校はちょっと特殊なので、授業の進度がめちゃくちゃ早い。
なので、たびたび無茶苦茶な事態が発生する。

今回は、夏目漱石「こころ」を100分で終わらすハメになった。

……それは無理だよ?

そもそも、「こころ」って一冊の単行本のボリュームがあり、教科書に載ってるのはその一部だ。
学校によっては、1年間かけてじっくり精読する授業をするところもあるような作品である。

リアル「100分de名著」をやらないといけない。(しかもわたしのポンコツな頭脳で)

お恥ずかしいのだが、そもそも、わたしは今だにこの作品の全貌が掴みきれていない。

人間って、自分の「心」すら、理解できないし、矛盾してるし、わからんよね。
という感覚があるばかりだ。

同僚のK先生は、「主人公まじクズっすよね!」と言ってたが、うーん、そういう方向には持っていきたくないんだよなあ。

なので、授業も、その「わからん」という感覚を差し出す形になってしまった。
(なんか最近は、凄そうにみせるというのを諦めてしまってて、それが良いのか悪いのかわかんないです。たぶんあんまり良くない。)

ちなみに、村上春樹も、「こころ」よくわからん、「こころはもうひとつよくわからんクラブ」立ち上げたら盛り上がりそうでは、と言ってて、元気づけられるなど。
春樹サンキュー!

授業のラストに、わたしのいちばん印象に残った一文をみんなで読んだ。

友人Kが自殺し、その現場を「私」が発見する場面の一文。

もう取り返しがつかないという黒い光が、私の未来を貫いて、一瞬間に私の前に横たわる全生涯をものすごく照らしました。

良すぎんか?
光なのに、黒いんだ。
そして、Kの死が、この先の未来すべてに重い十字架となって横たわることが一瞬で決定づけられる。
痺れる。

イキイキ話すわたしとは対照的に、教室は、良い感じにど〜んよりした空気になり、そのまま授業は終わった。

数日後、授業終わりに片付けをしていると、ある生徒が話しかけてきた。
物静かな子で、自分から話しかけてくることはめったにない。

「先生、本買いました、「こころ」。少しずついま読んでます。」
まじですか!

めっちゃ嬉しかった。
にこにこしてしまった。
たまにこういうことがあるので、この仕事は幸せだなと思う。


なんにも、大したものは渡せないんだけどね。