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🏛️ 記憶の美術館 展示作品 No.018展示名『塩おむすびの味』


展示分類

🍙 家族の記憶
🎣 食の記憶
🌿 自然の記憶
✨ 記憶の考察


こんにちは、館長です。

今日、当美術館に届いたのは、青森県弘前市にある「座頭石(ざとういし)」の深い緑に包まれた、あるご家族の温かい記憶です。

今回の記憶の提供者は、女性のニモ吉さん

裕福ではなかったけれど、だからこそ今も胸の奥で最高の輝きを放ち続けている、お母様の愛情に溢れた、とある一日の物語。どうぞ、ごゆっくりご覧ください。


🎣 清流の音と、竹の釣竿

弘前市の山あいにあった、座頭石の釣り堀。
近くの清流から澄んだ水をそのまま汲み上げて作られた池の中を、美しい岩魚(イワナ)たちが気持ちよさそうに泳いでいました。

お手製の練り餌を丸めて針につけ、レンタルした素朴な竹の釣竿をそっと池に垂らす。
ウキがピクピクと動くたびに、子供たちの小さな心臓はドクドクと高鳴ります。

釣れた岩魚は、重さで値段が決まる仕組み。
なけなしのお金を握りしめてやってきたその日、ニモ吉さんのご家族にとって、その一匹一匹が本当に特別で、貴重な「ごちそう」でした。


どんなごちそうにも勝る、最高の「いい塩梅」

釣り堀の売店には、出汁の香る美味しそうな「津軽そば」の文字が並んでいました。
周りの家族がそれを注文する中、ニモ吉さんのお母様がカバンから取り出したのは、家から大切に握って持参したおむすびでした。

「ウチはこれがあるからね」

当時は貧乏な家庭だった、とニモ吉さんは振り返ります。
けれどお母様は、自然の中での娯楽を通して、なんとか子供たちをお腹いっぱい楽しませてあげたいと、必死に工夫を凝らしてくれていたのです。

売店のおそばは我慢する代わりに、浮いたお金をすべて「釣り」という最高のエンターテインメントに回す。そして、お腹は手作りのおむすびで満たす。それは、お母様が紡ぎ出した、不器用で、どこまでも温かい愛の節約術でした。

そのおむすびの中で、ニモ吉さんの心に一番深く残っているのは、具のないシンプルな「塩おむすび」です。

いつもそこにあった、特別なものは何も入っていない白いおむすび。
けれど、お母様が握るその塩加減はいつも絶妙で、最高の「いい塩梅」でした。大自然の空気の中で頬張るその味は、どんな高級料理よりも美味しかったのです。


苦手だったはずの、カリカリの記憶

実は、ニモ吉さんはもともと淡水魚がとても苦手でした。
けれど、自分たちで釣り上げ、その場で調理してもらった岩魚の唐揚げが目の前に運ばれてきたとき、その香ばしい匂いに目を丸くします。

大きな口でかじりつくと、身はふっくらとしていて、骨までカリカリ。
川魚特有のクセなんて、どこにもありません。

「美味しい!」
「それ私の!」

気づけば、お兄様たちや妹さんと奪い合うようにして、夢中で貪り食っていました。みんなの手が伸び、笑い声が響くテーブル。その賑やかな光景を、お母様はどんな表情で見つめていたのでしょうか。

お腹が満たされたあとは、近くの山へ入って山菜採りやキノコ採り。
自然の恵みを泥だらけになりながら追いかけたあの山は、子供たちにとってどこまでも広い遊園地のようでした。


🏛️ 館長より

今ではクマの心配もあり、当時に比べるとあの山へ近寄る人は少なくなってしまったかもしれません。座頭石の釣り堀の賑わいも、時の流れとともに静かな思い出へと姿を変えていきました。

けれど、お金がなくても、お腹と心をこれ以上ないほどに満たしてくれたお母様の「工夫」と「優しさ」は、ニモ吉さんの心の中で今も色褪せることなく、カチカチに凍った岩魚の骨さえ溶かすほどの温もりを保ち続けています。

あの塩おむすびの絶妙な塩加減。
きょうだいで競り合うようにして食べた岩魚の唐揚げの、あのサクッとした音。

それらはすべて、お母様がニモ吉さんたちに遺してくれた、生涯消えることのない「心の富」なのだと思います。

ニモ吉さん、宝物のような大切な記憶を預けてくださり、本当にありがとうございました。

読者のみなさん。
あなたの心に残っている「高級料理ではないけれど、なぜか忘れられない味」はありますか?
それは、誰が作ってくれた、どんな日の味でしたか?

それでは、また。

あとがき
記事を公開したあと、ニモ吉さんからこんなお言葉をいただきました。
「ありがとうございます。
今年春に母は亡くなりましたが、もし生きてたら喜んだと思います。」
この一言を読んだ時、館長である僕の胸にも深く響くものがありました。
子どもの頃には当たり前だと思っていた、お母さんが握ってくれたおむすび。
限られた中で楽しませてくれた釣りの日。
その時は気づかなかった愛情が、何十年という時間を越えて、今こうして大切な記憶として蘇る。
記憶というものは、不思議なものです。
その瞬間には気づかなかった想いを、時を経て僕たちに教えてくれることがあります。
ニモ吉さんのお母様が握った塩おむすびは、もう味わうことはできません。
けれど、その味に込められた優しさや家族を想う気持ちは、こうして言葉になり、未来へ残っていきます。
もしお母様がこの展示をご覧になったら、きっと少し照れながら笑ってくださるのではないでしょうか。
「そんな大したことじゃないよ」と。
でも、その何気ない優しさこそが、誰かの人生に残る大切な作品になるのだと思います。
ニモ吉さん、大切なお母様との記憶を預けてくださり、本当にありがとうございました🏛️🍙

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