ハンドクリーム。|随筆

ハンドクリームを二、三日塗り忘れると、右手親指の側面からささくれが顔を出す。地味に痛い。なのに同じ手の他の指で逆向けにいじっては「ああ、痛いな」と感じる形で多動思考に栞を挟んでいる。

昔から自分のケアには無頓着で、手指の保湿をよく行うようになったのは今季が初めてかもしれない。
唇、顔面、脛や肘、この辺りは以前からなるべく気を付けていたつもりだったけれど、それもまた此処五年程度のお話だったかもしれない。手指の先まで意識を向けるには、余りにも障害が多かったのだ。セルフネグレクトも楽じゃあない。

それまでは手指のケアというと、CMなどで目にする痛々しい様子になってから・或いは、なった経験があってから気を付けるものだと思い込んでいた。何故なのかはわからない。〝ナメて〟いたとも表現できる。

とはいえ、ささくれ一枚でも、地味な程度であっても、痛いものは痛い。だからいい歳になって漸くハンドクリームをちゃんと塗ろうと思い始めた。
生まれて初めて自分の意思で使ってみるとなかなか快適なもので、こういう物は酷くならないうちからケアをするものなのだろうなと、身体が覚えた。

精神面のケアも多分に同様であって、自殺企図や自傷行為であるとか、判り易い不調をきたしてからでは遅い。ささくれ一枚のうちからのケアでも、遅れを取るかもしれない。これは自身の経験から言えることだ。

だから、もし心にささくれが出来たら。其処をいじっては「ああ、痛いな」とやるようになったら。「みんなはこんな程度では……」と我慢や軽視をせず、ハンドクリームを丁寧にすりこんでゆくように、手厚く心のケアをするのが屹度よいと思う。
(そもそも「みんな頑張ってる」の〝みんな〟って、誰だよ。知らねぇよ。ね。)

もうすぐ春ですね。ちょっと休んでみませんか。


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