屑籠に花
曲線美を称賛された自動車の黒い舌が伸びて、忽ち何処へも行けない身体にされてしまった。苦痛だとは感じなかった。此の儘誰からも、友にも見付からなければ、屹度母さまが迎えに来て、うんと叱ってくれるから。骨折したシフトレバーから伸びた蔦が強く絡まって、舌を全く動かせなくなってもしまった。後ろ向きな気分には発展しなかったのは、新車らしい構えにも煙草の匂いが染み付いていたから。
泥は相変らず電車の吊広告を飾っている。左下のロゴデザインすら卑しく視えた。股を広げて鼾を散らかす背広姿、あれが手にする雑誌だとすれば丁度似合いだろう。唇を噛んで自棄気味に鞄を抱き潰している天使のストッキングには、左右合せて四本の電線が敷かれていた。赤毛虫を蹴落とす価値観の何がいけない。高い所は気持ちが良いぞ、そら、今に登って来るがいい。君に出来るとするのならば。
錆びたブランコの陰影から、急激に追い抜かれる。そして並び、走っても転んでも間に合わなくなる。諦めて砂場に大の字で呼吸を整えていると、上着に秋が巻付いている様に気が付いた。そいつは顔面を舐めたり、尻尾を振ったり、構って貰いたくて忙しいようだ。よしよし、一緒に帰ろうね。雪が降る迄、一緒に居ようね。
