双曲線の谷
引越しの高揚感を抱えたまま手に取った物から、さっき買ってきたラッキー・ストライクといい、気が付けば部屋が赤が目立つ物だらけだ。近所を旋回しているヘリコプターからも赤い菓子の小包がばら撒かれていた。胡乱な催しなのだろう。一昨日、散々に千切った紙幣が流した血もいよいよ意味を帯びてくる。
前に進めない楽譜に印をチョイと遣れば、鍵盤の上に新規保存のウィンドウが開いた。頭を素早く跨いで行った珍妙な文字列を入力し、後は生きるモチベイションごと失ってしまった身を隠滅すべく、譜面を火に焚べておいた。なに、マカロニを耳から生む方法なら漸く覚えてきたところだから平気さ。フィルタで濾した真ッ平らな悪意がお好きなら、どうぞ腹の膨れるまで意地悪をしたりされたり、御随意に。
昔は滑り台の上に立ったら、気が大きくなって、自分も図書室の背表紙に名を加えられるような気がしていた。嘘で塗った画用紙が乾くには、表皮のあどけなさが必要。狂人のフリをすると狂人になると謳われているが、此方がトマトのフリをしたってトマトに変わりはしない事は火を見るより明らかだろうから、諦めて風呂に入りなさい。
