水溶性エクスプロウル
彼女の眼鏡が、鼈甲を被った三毛猫みたいなフレームだった事を未だに覚えている。丁寧に結われた髪。丁寧な所作。丁寧に紡がれた言葉。反して、自身の胎に住む紫色したベーグルを粗雑に扱いたがる人だった。ベーグルはとても美味しそうだったのだが、如何考えたって突然かぶりついては失礼に当る。窺える薄藍色の野菜が花嫁衣装めいて、美しかったと記憶している。
道端に落ちている手垢に塗れた修飾詞では蛙の貴族に見合わない。幾ら繕っても、どれだけ繕っても、或るカプセル錠の取扱説明書に有る端正なイタリック体には勝れやしないのだ。早く飯にしなさいと急かす存在とは、いつも酒乱の妃がむくりと起上がる定刻で、些か奥歯の銀が光り過ぎ、残酷な折檻からは逃れられず。冷蔵庫に飼っている甘味には今日もとうとう餌を遣れぬまま幕が降りてしまった。
爪をアーチ状に切るにも満足に出来ないでいる。劣っているのは分かっていたから、レッスンは矢ッ張りがっかりばっかりだった。滑止めの機能しない階段が瓦解するにも間も無くで、此処で只々、未だ居もしない被害者からの過剰な苦情に怯えているしかなかった。レイシストの手玉に成るに要する事実を砕けそうな処まで来られたのだから、後は尻を振るMT車への小言を聞かずに済むようにしたい。
買い置きの菓子類に込められた誰かの優しさに、涙が出そうだ。
