散歩すら失敗する

靴先に墨が落ちた。歩幅を狭めずに目的地へ向ってゆくにも拘らず、奮発して買った他所行きの皮革は汚され続けた。アーケードから漏れ聞こえてくるさり気ないオーヴァー・レイは知る由も術もなく、只々千千に煌めく光線でわたくしを串刺しにしようとしようと夢中の様子でありました。よく焼けた靴裏はハムステーキに成った。焼ける匂いに場違いな食欲を覚えていますと、自慢のステッチから小人がみるみる湧き出して、忽ちにして肉食を好む夢の国へと招待されてしまったのです。

無数の七本足を持つ虫達が歓迎をしてくれ、然しうち一匹は聞かン坊であるのか、涎を垂してわたくしの靴底に噛みつこうと素早く寄り付いた。潜在意識の警鐘が反射的に踏み潰します。紙切れ宛らぺしゃんこの姿になってなお、其れは肉汁を浴びるのに夢中でした。無惨に折れた首らしき部位と奴が最後迄抱え続けていた生き汚さには、軟膏をくれてやりましょう。ピアスホールとて同じく、単なる傷跡に過ぎないのだから。

足踏みをして靴裏の遣り場を迷っていると、今度は小さな神社らしき場所へと弾き飛ばされており。致し方なく、そうあらねばなはない気がしたので、お手水を三度汲んで狛犬の周りをぐるり、大きめの円を描くように歩く。其れを四度繰返せば元歩いていた繁華街に着けるような予感で胸がいっぱいだった。あの、真新しく見えても、名も顔も香りも気配も知りゃアせん女子高生による飛び降り自死の成功した痕跡が先月、大型清掃をなされたらしいアーケードの下に。

目が覚めて暫く、自室に飛ばされたのかと思った。実に、癪な夢だったと思う。先ず、ワープだかタイムリープだかの証拠を探す。誰かに奇妙な体験を知って欲しかった。晩夏のエンタテイメンツの一環として、話してみたかった。けれど眼鏡の弦が少し歪んでいたことしか、変化は見当たらなかった。あゝ、なんだか、オニオンソースで着飾ったハムステーキが食べたい!