蜂蜜を御御足に
森羅万象がやつがれの噂話をし始めてから早二ヶ月半。町には豊かに虎鋏が繁り、人間の足首を食い千切ってオレンジソース添えのソテーにしようと奮起しております。
とてもじゃあないが下手に表には出られず、然し衰弱してゆく身を案じて通信販売で食糧を買い込むのですが、訪ねてくる配達員もまたゴムを含んだみたいにもたもたと動かす口から常識外れな数形の歯を覗かせて用件以上の物言いをしたがるので、矢ッ張り自分は何処迄も地球に向かない生物であるのだと知らされるばかりであります。
近所の案山子が首に掛けていたような気がする、血液程に赤黒い何かが染み付いた手拭いが百舌鳥の早贄よろしくドアノブに突き刺されており、ヒャア、と間抜けな悲鳴を上げて尻餅をつくと無数の蜈蚣がなんだなんだ何事かと急いで寄り付いて。窮鼠でも猫を噛めるのに、やつがれと来たら口や耳に彼等がうぞうぞと顔を潜らせても泡を吹いているしか叶いませんでした。
枚挙のいとまも見えやしない過去に吐き残して参りました生き汚い嘘を、誰が窘めてくださいましょうか。空には猫が、地中には鳥が。海には花が、山には魚が。全てがあべこべの――然しいづれも疑いを寄せつけぬ佳景で――世界では、須く己の信念を抱き締めるべきなのでしょう。
