十六時七十八分
耐えかねた左手に落すのは夕陽色と足帯に描かれた絵具を其の儘搾り出した如き鮮やかな薬。
直ぐにでも飲み込んでしまいましょうか、或いはつらへ頸へと塗りたくってやりましょうか。如何すればわたくしの〝すべて〟は治りますか。
あらゆる秘密事を留められない口の緩い薬袋は答えない。精神科の領収書なら歳の頃五十路くらいの顔皺を顰め深めて鞄の底で目一杯にわたくしを恨んでいる。
換気を行ったまま忘れ去っていた開け放しのレース・カーテンを挟み、叛らえぬ暮れに進退窮まれり小鳥のさえずりは矩形波に似て。
訳知らずに渇く喉には、砕いた氷を一掴み。地獄から取り寄せたハーブ・コーディアルのなんと芳しいこと! こりゃあ一ツ、来る夜間が両手に抱えてくる荷物の悪趣味に乾杯を交わそうじゃあないか。キヤリン、と鳴いた三ツ四ツのグラスが〝フリー・ハグ〟の看板を散らかしました。
斯くして指紋の数をヨウヨウ張った胸に乗せた消しゴムは語るのです、やい、我々は月夜の策には溺れず朝の白い指に搾られもしないのだぞと。未だ削られずで居る鉛筆の処女が浮かべる微笑には、嘲が多分に含まれておりましたが。わたしの夕陽色でコーティングした症状も、彼女がやがて紙を知る時によく似、自然の摂理で黒ずんでいくのでしょう。
