疎遠証明書
昔、目的がある訳でもなく立寄った土産店で手に取った簪には、現在に至っても尚やつがれの髪を噛付かせてやっている。頭を傾ける度、小ぢんまりとした滝の様な装飾がしやらしやらと淑やかさの中に潜む不安定で揺れ、重なり、離れて、ときに姦しい。和装らしい其れには縁が無いが、食事をするときや食器を洗う時、食卓を拭き掃除する際など、簪とは不思議と日常の〝食〟に纏わる時間を共にしていた。
知っている言葉なのに上手く自分に馴染まず使うに至れない物が、言語野の最果で腐ってゆくのが分かる。何らかの弾みで語彙が新たに追加されるたび鮮度を保つべく折を見て辞典と睨めッ子を行えど、毎回敗北してはまた一ツ、二ツと駄目にして仕舞う有様だ。自宅の冷蔵庫は世辞にも管理が届いているとは呼べないが、まして脳や思考は目視が不可能であるから殊更に取り出すでも磨くでもなくなってしまうのだ。此の瞬間にも『逆輸入』と云う表現が含む油脂が嫌な臭いを放ち始めている。
空きを作れば新たに何かを詰め込めて、そりゃあ、幾つかは同様の末路を辿らせてしまうかもしれないのだけれど、思い立ったが吉日だ。簪を横咥えにして、毛束を纏めよう。
