ゆりかご明晰夢
頭を左右に振るとカラコロとちいちゃな猫が移動する音がする。もっと激しく揺すってみたら、耳からコロリと気配が転がり落ちた。拾い上げてみると賽子そっくりの外観をしており、猫の耳が〝2〟に黄色い目が〝3〟と、其々の数に応じたパーツを示している様子だった。加えて申すならば〝5〟は尻尾の本数を、〝1〟には愛らしいピンクで肉球がぺったん、判を撞かれたように真ん中を小さく誇っていた。思わず緩んだ頬は、溶解して床にぱたぱた落ちていった。一見、涙にも似ていたが、滴りは此の世から悲しみが癒えても引っ込まない。
丁度一口大に丸められたティシューの皺元を留めるべく良い仕事をしているのは、真ッ黒な駅を模した蜂蜜だった。丁度ワインにも誂え向きだろうが、残念ながら今宵の酒にはリップ・ティントしか用意できない。超能力者が一本一本丹念に曲げたカトラリーに伸ばす手が止まらないのは今に始まった事ではなく、親不知辺りで泡立つ唾液が声を上げて喜んでいた。今此の瞬間がアラベスク絨毯である事実を否定するかの如く。
濡れ場ばかり買って出る女優は然し、接吻を好まなかった。どころか、強く嫌悪している様子だった。左胸を飾った薔薇の刺青は語る、積木の砕けた幼児期にチョコレートを買い与えて貰えなかったのが全ての始まりなのだと。星星の内輪揉めは背に腹を変えられず、視線一本が物語の幕を下ろすのだと。全てを耳に聞くでもなく浴びていた二十一時の青空は昏昏、絡繰人形と繋いだ手指を離そうとしないのであった。
