ベンチプレスで肩を痛める本当の理由 / 腱板と肩甲骨の動きから考える【図解】
はじめに |ベンチプレスで肩を痛めたことはありませんか?
ベンチプレスは、パワーリフティングの主要種目であり、多くのトレーニーが取り組む定番種目です。 しかし同時に、肩を痛める人が非常に多い種目でもあります。
私自身、ベンチプレスで棘上筋(きょくじょうきん)を痛め、ローテーターカフ(腱板)を痛め、腱板断裂も経験しました。今も、以前のように全力でベンチプレスができない状態が続いています。
「たかがベンチプレスで」と思われるかもしれません。しかし、フォームの崩れが積み重なると、肩関節の中で確実にダメージが蓄積していきます。
この記事では、なぜベンチプレスで肩を痛めるのか、解剖学的な理由と、現場での評価・改善方法まで解説します。
肩関節を支えている"腱板"という筋肉群

肩関節は、体の中でも可動域が広い分、不安定になりやすい関節です。この不安定な関節を安定させているのが、ローテーターカフ(腱板)と呼ばれる4つの筋肉です。
棘上筋(きょくじょうきん):腕を横に挙げる動作を補助し、肩関節を安定させる
棘下筋(きょくかきん)・小円筋(しょうえんきん):腕を外側に回旋させる動き(外旋)を担う
肩甲下筋(けんこうかきん):腕を内側に回旋させる動き(内旋)を担う
この4つの筋肉が、上腕骨の骨頭を肩甲骨の関節窩(かんせつか)に引きつけるように働くことで、肩関節は安定して動きます。 ベンチプレスで最も痛めやすいのが、この中でも棘上筋です。
肩甲上神経の走行

棘上筋・棘下筋を支配しているのが肩甲上神経(けんこうじょうしんけい)です。主にC5・C6神経根(頸椎5番・6番のレベル、腕神経叢の上神経幹)から分岐し、肩甲骨の切れ込み(肩甲切痕)を通り、棘上筋・棘下筋へと伸びています。
この神経が通る肩甲切痕は狭いスペースで、肩甲骨の動きが悪くなると、神経の滑走性にも影響が出ることが知られています。 つまり、「腱板を痛める」という現象には、筋肉だけでなく神経の走行スペースも関わっているということです。
なぜベンチプレスで肩を痛めるのか

現場でよく見るフォームの崩れは、次のようなパターンです。
脇が開いて肩が上がってしまう 肘を大きく開いた状態(90度に近い角度)でバーを下ろすと、肩関節が過度に外転し、腱板が骨と骨の間で挟まれやすい肢位になります。
バーを下ろす位置が上すぎる 胸の上部や鎖骨付近までバーを下ろすと、肩関節が過剰に外旋・外転し、肩峰下(けんぽうか)のスペースが狭くなります。これが繰り返されることで、棘上筋がインピンジメント(挟み込み)を起こしやすくなります。
肩甲骨の下制(かせい)ができていない セットアップの時点で肩甲骨を寄せて下げる(下制する)ことができていないと、挙上中に肩がすくみ上がり、肩関節が不安定なまま重量を支えることになります。
ブリッジが組めていない 胸を張り、腰から肩甲骨にかけてアーチ(ブリッジ)を作ることで、バーの軌道が短くなり、肩関節への負担が減ります。ブリッジが組めていないと、可動域が必要以上に大きくなり、肩への負担が増加します。
これらが単独ではなく、複合的に重なることで、慢性的な負担が腱板に蓄積していきます。
トレーナーが現場で確認する評価方法

肩の痛みを訴える会員さんに対して、以下のような評価を行うのが標準的です。
Neer(ニアー)テスト 腕を体の前方から挙上させ、肩峰下でのインピンジメントによる痛みが誘発されるかを確認する。
Hawkins-Kennedy(ホーキンス・ケネディ)テスト 肩と肘を90度に曲げた状態で、腕を内側に回旋させ、痛みが誘発されるかを確認する。棘上筋の腱が肩峰下で挟まれやすい肢位を再現するテスト。
Empty Can(エンプティカン)テスト/Jobeテスト 腕を横に挙げ、親指を下に向けた状態(缶を空けるような姿勢)で抵抗を加え、棘上筋の筋力低下や痛みを確認する。
肩甲骨の動きの観察 挙上動作中に肩甲骨が正常なリズムで動いているか(肩甲上腕リズム)、すくみ上がっていないかを目視で確認する。
※これらは整形外科領域で広く使われている一般的な評価法です。トレーナーが行う場合は、あくまで「気づきのための観察」であり、医学的診断ではないという前提を必ず徹底してください。
改善のためのフォーム修正・エクササイズ

1. セットアップでの肩甲骨下制 バーを握る前に、肩甲骨を寄せて下げる(下制する)意識を作る。 キューイング:「バーを握る前に、肩甲骨をポケットに入れるイメージで下げてください」
2. 肘の角度の修正 脇を90度近くまで開かず、体幹に対して45〜70度程度の角度でバーを下ろす。 キューイング:「脇を全開にせず、体に軽く寄せるイメージで下ろしてください」
3. バーを下ろす位置の見直し 胸の上部ではなく、みぞおちに近い下部(乳頭ライン〜やや下)を目安に下ろす。 キューイング:「バーは鎖骨ではなく、みぞおちに向かって下ろすイメージで」
4. ブリッジの習得 腰を反らせすぎず、胸を張って肩甲骨を土台にしたアーチを作る。 キューイング:「胸を天井に見せるように張って、肩甲骨で床を押してください」
5. 腱板の強化エクササイズ チューブを使った外旋・内旋エクササイズ(棘下筋・肩甲下筋の強化)を、ベンチプレスの前後にウォームアップ・補強として組み込む。10〜15回×2〜3セット。 キューイング:「肘を体から離さず、前腕だけを外に開いてください」
医療機関受診の判断基準
トレーナーとして分かる範囲での対応は行いますが、以下のような場合は無理をせず専門家につなぐことを基本方針としています。
しびれや痛みが運動時だけでなく、安静時や睡眠中にも出る
痛みが数週間以上続く、または悪化している
腕を挙げる動作で明らかな筋力低下がある
明らかな腫れや熱感、動かせないほどの痛みを伴う
このような場合は、整形外科の受診を勧めるか、当ジムに在籍する理学療法士スタッフの評価を挟むようにしています。 私自身、腱板断裂まで経験して初めて、「早い段階で専門家に相談する重要性」を痛感しました。同じ思いをするトレーニーを一人でも減らしたいというのが、この記事を書いている理由の一つです。
おわりに
ベンチプレスで肩を痛める人の多くは、「重量に見合った筋力がなかった」のではなく、フォームの中に肩関節を痛める要素が積み重なっていたことがほとんどです。
神経・筋肉・関節の動きを理解した上でフォームを見直すことは、記録を伸ばすためだけでなく、長くトレーニングを続けるためにも欠かせません。
私の記事を見て、一緒に勉強していきましょう!
【本記事は運動指導者向けの解剖学的知識の共有を目的としています。 症状が続く場合は、必ず整形外科などの医療機関を受診してください。 本記事は診断・治療を目的としたものではありません。】
